第106回:読めばきっと「物語」が大好きになる物語。
こんにちは、あみのです!
今回の本は、綾崎隼さんの『死にたがりの君に贈る物語』という作品です。
今作では、小説家が私たちに物語を届けるときに込めている思いを強く感じることができます。
私は「物語」が持つ力を描いた作品や、「読者と作者のつながり」を描いた作品が凄く好きなので、ミステリー風味の展開からどのような「物語」と「小説家」にまつわる感動が待ち受けているのか、とても目が離せなかった1冊でした。
何かの物語に影響を受けたり、勇気づけられたりした経験がある人にはきっと共感&感動が止まらない作品かと思います!
あらすじ(帯より)
感想
私は小学生の頃から物語に触れることが大好きで、これまでにたくさんの物語や作家さんに何度も心を救われました。心の栄養になる素敵な物語と出会うことは、日々の楽しみでもあります。
今作は「ミマサカリオリ」というひとりの作家の突然の死から物語が動き始めます。メインヒロインの純恋は、ミマサカリオリの『Swallowtail Waltz』シリーズと出会ったことによって、人生を大きく変えた読者のひとりです。
そんな彼女にとってミマサカリオリの死は、絶望としかいえない出来事でした…。人生最大の楽しみを失ってしまった純恋は、自分が今を生きている理由も見失ってしまいます。
私も数年前に本を好きになるきっかけとなった作家さんが亡くなってしまい、もう新作が読めないことに対する悔しさからしばらく立ち直れなかった経験があります。大好きな作家さんがこの世からいなくなった現実を知ったあの瞬間は一生忘れません。
なので純恋が「ミマサカリオリ」という神様のような存在を失ってしまった悲しみは、私の過去の経験と凄く重なるところがあり、冒頭から共感しかなかったです。
ミマサカリオリの死によって生きる理由を見失ってしまった純恋ですが、彼女にミマサカリオリの物語と「再会」できるチャンスが訪れます。それは、ミマサカリオリを愛する読者たちと『Swallowtail Waltz』の世界を模したような共同生活を送ることでした。
廃校での共同生活のシーンでは、純恋をはじめとする参加者たちが『Swallowtail Waltz』について語り合う様子が多く描かれていました。
『Swallowtail Waltz』は作中作ではありますが、私は不思議と「このシリーズのことをよく知っている!」と読んでいて思いました。
なぜならば、様々な形の「生きづらさ」を抱えた『Swallowtail Waltz』の登場人物たちの姿が、これまでに出会った古今東西の物語たちと重なって見えてきたからです。『Swallowtail Waltz』はきっとこの世のありとあらゆる物語の欠片を組み合わせた作品なんだと思います。物語を通して、私もこの生活の「参加者」のひとりになれたことも新鮮な読書体験でした。
それにしてもミマサカリオリの読者たちはなぜ廃校に集められたのか?謎が深まる共同生活ですが、物語の中盤にて衝撃的な出来事が発生します。
それは「ミマサカリオリは死んでいない」こと、そして「共同生活のメンバーの中に本人がいる」ことでした。
この展開よりミステリー色が更に増すと同時に、純恋とミマサカリオリとの関係の物語にもなっていきます。
共同生活に隠された真の目的やミマサカリオリの正体から見えたのは、「小説家」としてのこれまでの苦難と読者に物語を届けている理由でした。
『Swallowtail Waltz』の5巻での衝撃的な展開が物議を醸し、多くのファンを裏切ってしまったことによってミマサカリオリは、「小説家」である自分から逃げていたところがありました。
しかし『Swallowtail Waltz』や「ミマサカリオリ」に対する純恋の熱い気持ちを受け取ったことによって、物語には誰かの人生を変えちゃうくらい凄い力があることをミマサカリオリは知ります。
ひとりの小説家と、その小説家が書いた物語で運命を変えたひとりの読者との関係性が最高にエモかったです。
また「あとがき」のミマサカリオリの言葉は、純恋はもちろん、これまでに裏切ってしまった読者たちに向けた言葉であり、綾崎さんをはじめとするすべての物語を作る人が作品に込めている思いでもあると私は受け取りました。
純恋との出会いによって、自分に正直になることを決意したミマサカリオリは、これからも多くの読者の心を揺さぶる物語を書き続けていきそうですね。
『Swallowtail Waltz』は完結してしまったけど、本を開けば大好きなキャラクターには何度も出会える。もしかすると読み直すことで今まではわからなかった発見だってあるかもしれない。純恋にはこれからも素敵な物語たちと共に毎日を楽しく生きてほしいなと思いました。
最後に、私はこれまでも「物語」が大好きでしたが、今作で描かれていたミマサカリオリの思いを受け取ったらもっと物語のことが大好きになりました。好きな物語に囲まれる人生って、最高ですよね!
これからも素敵な物語と出会って、心の中を宝物でいっぱいにしていきたい!と思えた物語でした。