現代を生きる尊さを感じる物語(二宮敦人:『さよなら、転生物語』)
読むと今の自分に自信が持てる物語に出会ったので紹介します。
今回の本は、二宮敦人さんの『さよなら、転生物語』(TO文庫)という作品です。
今、この感想文を読んでいるあなたは、「他の時代の人間に生まれてみたい」と思ったことがありますか?今作では不思議な力によって、過去を生きる人間に転生した現代人たちの物語が描かれます。
転生というとラノベなどでは定番のモチーフですが、転生を通して時代ごとの価値観の違いや「生きづらさ」が感じられるところは今作ならではだと思います。
毎日にちょっぴり疲れた時に読みたくなる1冊です!
あらすじ
感想
身近な人間関係とか溢れかえる情報とか、今の世の中って生きづらいなと思うことが私にはよくあります。
今作の主人公のひとりであるサトルは厳しい職場での毎日に疲れ、自分が生きている理由がわからなくなります。ルールや人間関係で苦しまない世の中で生きたいと願ったサトルは、ビルカというランプの魔神の力で原始時代の人間として生きてみることにします。
狩りが主流となる原始時代では、災害などで食料となる動物が減ってしまった場合、食料を手に入れる何かしらの手段を生み出さなければならない。更にはその手段を巡ってのルールが生まれ、やがて争いが生まれる。
私もサトルが転生した時代に生きてみたいとはじめは思ってましたが、生き延びるために人々が命を奪い合う瞬間を見た時、日常的に命の危険があるくらいなら、今の世の中の方がいいのかもな…と思いました。彼のエピソードからは、形は異なるけど時代ごとの「生きづらさ」は必ず存在するということを強く感じました。
その他のエピソードも今を生きることの尊さが強く感じられる良作ばかりでした。古代中国に転生した隆太の物語では、人々の生活を苦しめる「龍」との戦いを通して私たちが働く理由を再発見でき、誰かのために生きたいという隆太の気持ちの変化も感じることができました。
またキリスト教が生まれる以前のイスラエルに転生した愛美の物語では、自分が抱える病気とよく似た傷を抱えるイディスという少女との絆に心が震えました。あらすじの「あなたはあなたのままでいい」という言葉が読む前から印象的だったのですが、愛美のエピソード後に改めてあらすじを読むと、より心にジーンとくるものがありました。
隆太と愛美のエピソードは、それぞれ転生をきっかけに現実を前向きに生きていこうとするエンディングだったところがすごく良かったです。
今作に登場した3人の転生の物語は、今の世の中に少しでも生きづらさを感じている人には絶対に刺さると思います。私も今作を読み終えたら、心にあったもやもやした気持ちがすっきりと晴れていきました。辛いことも多い世の中でも、毎日頑張りたい!といった気持ちになれる素敵な物語でした。