よめぼく5(読書感想文)
森田碧さん『余命一年と宣告された君と、消えたいと願う僕が出会った話』(以下よめぼく5)を読みました。
今回のお話は「記憶」がテーマとのことで、私は忘れられるということが死以上に残酷だと思っているので、このエピソードはいつも以上に感動的な内容だと予感して読み始めました。
まず今作はものや人の記憶を少しずつ失い、やがては死に至る「虫喰い病」が物語の軸となっていて、大好きな人との思い出の尊さがところどころで感じられました。
主人公の悠人は、姉が虫喰い病を理由に亡くなったのを機に「死にたい」という願望を抱いていました。前半は悠人の暗い感情が目立ちますが、姉と同じ境遇を背負うヒロイン・桜良と出会い、恋をしたことで、悠人の中には彼女と共に生きていきたい思いが生まれます。
特に彼の変化が感じられたのは、病気が悪化し、学校を休むことになった桜良にクラスのみんなで色紙を書こうとするシーンです。
事実を知らないというのもあってか投げやりなメッセージを書くなど桜良に対して粗末な対応をするクラスメイトに怒りをぶつけ、彼女の真実を話す悠人の勇気がグッと心にきました。
一方の桜良も印象的なヒロインとして描かれていて、悠人以外のクラスメイトには「可愛いけど近寄りがたい」だとかミステリアスな印象を持たれていましたが、そのような印象を持たれてしまった背景には、悠人の姉と同様にいろいろなものや大好きな人たちのことを忘れてしまう恐怖が隠れていたように見えました。
物語の中盤にて、桜良が悠人のことを忘れてしまうシーンがありました。作中にて「ノーシーボ効果」の話題があったので、桜良の記憶喪失も嘘だったらいいのにな…とは思いながらも、それでも桜良に一生懸命話しかける悠人の姿を見るたびに胸がキュッと苦しくなりました。記憶を失っているはずの彼女と見る映画はどんなに切ないものなのかと思いました。
後半の展開にはハラハラしたけど、悠人の素直な思いが届いたのかクライマックスでは温かな奇跡が起き、読後は思わずスタンディングオベーションしたくなる見事なストーリーでした。清々しい読後感を求めているなら今回のお話がシリーズで1番おすすめかと思います。
今回の本
シリーズ1作目の感想も合わせてぜひ
よめぼくシリーズといえば、既刊に登場した話題やキャラがちょっとだけ出てくるのもお楽しみのひとつ。今回は1作目で印象的だったあの子と悠人&桜良の共演が見られておおっー!と思いました。