現代の吸血鬼の姿から考える「人間」の課題(万城目学:『あの子とQ』)
読んでいてとても楽しい気持ちになれた作品があるので紹介します。
今回の本は、万城目学さんの『あの子とQ』という作品です。
レトロでポップなカバーイラストと魅力的なキャッチコピーに惹かれて手にしてみた1冊。カバーだけでも仕掛け満載で(例えば帯を外すと違う弓子の姿が現れます)、読む前からわくわくした気持ちでいっぱいになりました。
今作は「青春小説」や「ファンタジー」のジャンルにカテゴライズできる作品ですが、読んでいくと不思議な設定の中に私たち人間の現代における「課題」が浮かび上がってきます。作中で描かれる課題に共感する人も多いかと思います。
吸血鬼のルールを巡る弓子の大冒険。読了した後は現代のルールに立ち向かった弓子から勇気がもらえ、新しい自分に出会いたくなる1冊です!
あらすじ
感想
まず読んでいてすごく気になったのが、弓子の両親をはじめ、自分が「吸血鬼」という種族であることに消極的な人が多かったところです。
この物語における吸血鬼は人間の目を気にして「人間の血を吸う」という本来の姿を失い、ほとんど人間と変わらない生活を送っていました。
弓子も両親と同様に「Q」の監視されたのち、血を吸うなどせず「普通の人間」として生きることを望んでいました。
しかし親友・ヨッちゃんの恋の応援で参加したダブルデートにて事故に巻き込まれ、死にかけていた親友の想い人・宮藤くんの血を吸って命を救ったことで、弓子の運命は大きく変わり始めます。
大事な仲間を助けたとはいえ、「人間の血を吸った」というのは事実。弓子が吸血鬼の掟を破ったことによって、彼女を監視していたQも巻き込む事態へと発展してしまいます。弓子が掟を破ったことで、Qは処刑されてしまう。家族と同等の存在であるQを救うため、弓子は現代における吸血鬼のルールに立ち向かっていきます。
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今作は吸血鬼たちの生き方を描いた物語であったと同時に、世間に意見を合わせてしまい、「本当の自分」が上手く見せられない私たち人間の物語でもあったと思いました。
中でも私が印象に残ったのが、物語の終盤にて弓子がトゲトゲした体のQを「抱きしめる」シーンです。作中に登場する吸血鬼たちが本来の姿を閉ざして生活しているのは「人間の生活に合わせている」のではなく、人間からどう思われるのかが怖くて「一方的に守っているだけ」だったのではないかと、このシーンから強く感じました。
吸血鬼たちが人間の生活に合わせているところや、Qの体がトゲトゲして触ったら痛そうな見た目をしているところは、私たちが「他人からどう思われるのか怖い」と人付き合いで躊躇ってしまう感情とよく似ているように感じてきました。
現実でも不特定多数の人が集まるネットでも、「誰かと関わるのが怖い」「相手にどう思われるか気になる」と思ってしまうのは自分だけかもしれない。はじめは難しいかもしれないけど、勇気を出して趣味など自分らしさを相手に伝えてみることも大切だと思います。その先には見えなかった世界や新しい仲間との出会いだってあるのかもしれないですし。
余談ですが、私もnoteで最近読書以外の話題も少しずつ書き始めてみたところ、新たなテーマの記事を書き始めたらやってみたいことも増え、毎日が更に楽しくなりました。
そしてQを受け入れた弓子のように、相手がどんな存在であっても自然に受け入れられる心を持てるようになりたいと思いました。見た目で相手を判断しなかったり、親友のために吸血鬼の掟を破ってまで宮藤くんを助けたりと、相手をまず大事にする彼女を私も見習いたいです。
今作はファンタジーでありながらも、世間の考えに振り回されない自分になることを描いた物語でした。他人に合わせるだけの生き方ではもったいない。もっと自分に誇りをもって楽しく生きていきたい!と読了後は前向きな気持ちになれた1冊でした!