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第123回:「好き」という気持ち。隠したままだともったいないかも。(此見えこ:僕を残して、君のいない春がくる)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、此見えこさんのライト文芸作品『僕を残して、君のいない春がくる』(スターツ出版文庫)です。

今作は、此見さんの既刊に比べると王道路線な内容だったと思います。
でも恋の綺麗な部分だけでなく、人間の「弱さ」とか人を傷つけることの重みも作中では描かれ、時々「闇」を感じる展開は今作でも現在でした。

1作目では日常に潜む何気ない「生きづらさ」、2作目ではLINEでのコミュニケーションを描いていた此見さん。3作目となる今作ではメイクに興味のある男子高校生を主人公に、自分の「好き」という気持ちとの向き合い方が大きなテーマとして描かれていました。

途中読むのが辛くなるシーンもありますが、周りの目を気にして自分の「好き」をなかなか人に言い出せない人にはきっと今作のメッセージは心に強く響くかと思います!

あらすじ(カバーより)

「ありがとう」と君は言ったけれど、救われていたのは、僕のほうなんだ。
顔の傷を隠すうち、本当の自分を偽るようになった晴は、ずっと眠りつづけてしまう難病を抱えるみのりと出会う。ある秘密をみのりに知られてしまったせいで、口止め料として彼女の「普通の高校生になりたい」という願いを叶える手伝いをすることに。眠りと戦いながらもありのままに生きる彼女と過ごすうち、晴も自分を偽るのをやめて、小さな夢を見つける。しかし、冬を迎えみのりの眠りは徐々に長くなり…。目覚めぬ彼女の最後の願いを叶えようと、晴はある場所に向かうが――。

感想

コンプレックスである顔の痣を隠すためにメイクを始めた男子高校生のはる。メイクをしていることは周りには内緒にしていたのですが、この秘密を偶然クラスメイトのみのりに知られてしまいます。

「普通の高校生になりたい」と話すみのりはメイクにも興味津々で、晴は秘密を知られたことを機に彼女をメイクすることになります。みのりが気になっていたコスメを試してみたり、彼女の髪型を変えてみたりするうちに晴は、次第にみのりへの恋心に気が付きます。

秘密を通してみのりとの距離を縮めていく晴ですが、彼女との関係がいい感じになってきたところで晴は最悪の事実を知ってしまいます。

それはみのりは難病を抱えていて、近いうちに死んでしまう可能性が高いことでした。みのりが「普通の高校生」という言葉にこだわっていたのにも、この事実が大きく関係していました。

みのりとの恋は悲しい結末にはなってしまいましたが、彼女との出会いによって興味があったメイクの世界をもっと好きになれたこと、「メイクアップアーティスト」という将来の夢を見つけられたことは、晴にとって充分プラスになったと思います。

また個人的には、みのりとの関係の他にクラスメイトの宇佐美さんという女子との関係も印象的でした。
晴にとって宇佐美さんは「よくノートを貸している相手」でしたが、宇佐美さんは彼の些細な優しさに惹かれていました。

晴に片想いをする宇佐美さんは彼に手作りのお菓子をプレゼントしますが、晴は彼女からの突然の告白に戸惑ってしまいます。

そこで彼がとった行動は、宇佐美さんが心を込めて作ったお菓子をゴミ箱に捨てるというものでした。このシーン、めちゃくちゃ許せなかったです。
みのりのことが好きで宇佐美さんの告白を受け入れることができないのはまだしも、人の気持ちがこもった物を捨てるって最悪だなと思いました。

晴の行動は、案の定宇佐美さんやその友人たちにも批判されますが、その後はまたみのりとの話に戻ってしまったので、宇佐美さんを傷つけたままで物語が終わって本当に良いのか?と正直読んでいて不安になりました。
でもみのりとの別れの後で、宇佐美さんとの関係についてもしっかりと触れていたので、安心して読了できました。

晴がやってしまったことは、宇佐美さんにとって一生消えない失恋の傷になってしまったと思います。そのような相手だとしても宇佐美さんは晴の新しい夢を応援していたし、「今度は自分をメイクしてほしい」と彼に依頼もしていました。宇佐美さん、すっごくいい子だなと思いました。

宇佐美さんの依頼によって晴は、メイクの才能をより開花していきます。否定されるのが怖くて言い出せない「好き」があっても、勇気を出して告白してみることで、自分の新たな可能性を切り開けることもある。今作ではそのようなことを感じることができました。

私もこれまで周りの目を気にしてなかなか人に言えなかった「好き」がたくさんあるので、自信を持って好きなものを好きと他人に言える人になりたいと今作を読んで思いました。

次はどのような物語で私たちの心を揺さぶるのか、此見さんの次回作にも引き続き期待です。

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あみの
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