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【日常で思うこと】新入社員の笑顔2

前回に引き続き……新入社員のOJTに気忙しい日々を過ごしている。
業務時間の8割は顔をこわばらせていた彼女も、少しずつ仕事に慣れてきたようで、喋り方に自信がついてきた。
こういうとき、ぼくは他の社員がいる前で大袈裟に褒めるようにしている。
それが同じ部署の上司や先輩社員の耳に入り、彼女の評価につながるから。
 
もちろん褒められることばかりではない。
むしろ他の新入社員に比べてミスが多い。
「大丈夫? 疲れてんじゃない」と訊くと、眠そうな顔で「疲れていません」と意固地になる。

「じゃあ俺が疲れたから、ちょっとサボるの付き合って」
とケーキ屋やコーヒーブースへ連れ出す。
そんなとき、少しだけほころんだ口元を見せてくれる。

 
こんな指導だから「アメミヤは新入社員に対して、甘い」なんて声が出てきている。
その通りだと思う。
 
でも叱ったり、怒鳴りつけたりする教育は、即効性があるけど身につかないことが多いのも知っている。
そもそも上司に怯えながら仕事をするのは、新入社員にとって死ぬほど苦痛だ。
15年前に自分が経験した地獄のような日々を、これから活躍する社会人に引き継がせる必要はないと思っている。
 
社会には厳しさを教えたくてしょうがないおじさん・おばさん達が多い。
 
「可愛いから、これまでチヤホヤされて育ってきたんでしょう? そういう娘って、他人に寄り添う機会がないまま育つから、社会性に欠けているの」
一部の先輩達は、そんなわかったような口を利いている。
新入社員のいないところで、チクチクと。

まぁ、ぼくも少し前まで彼女に対して、近い印象を抱いていた。
話を振っても素っ気ないし、他人の話は「ふーん」で終わらせてしまう。
何より、ほとんど笑顔を見せない。
 
社交性がないともいえるが、しばらく見ていると
「他人に対して緊張しているだけなのかもしれない」
という考えが浮かんできた。
 
それを「社会性に欠ける」とバッサリ切ってしまうのは間違っている。
心を開くのに少しだけ時間が掛かる人間は、たくさんいるのだから。
 

そんな冷たい印象を持たれている彼女だけど、先日ちょっと意外な行動を起こした。
 
休憩中に彼女は突然、保冷バックを持ってきた。
「今日、誕生日ですよね? ケーキを作ってきたので、よかったら食べてください」

飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

その日も朝から笑顔がなく、話しかけても気だるそうな返事で「嫌われたかな」と思うほどの対応をされていたから。
そんな彼女が自分のために、ケーキを作ることなんて予想していなかった。
 
ぼくの誕生日を知っていたということだけでも、驚きなのに。
 
中を覗くとカップ入った6個のケーキとスプーンが入っていた。
「社員寮はオーブンがなくて、うまく作れなかったのですけど」
と、うつむく彼女を見て、鼻の奥にツンとした痛みが走る。
迂闊にも泣きそうになってしまった。

娘に優しくしてもらった父親の心境に近いかもしれない。
 
ぼくなんかよりも、ずっと他人を思いやる気持ちがあるんじゃないか。

他の社員に“社会性に欠けている人”というイメージを着けさせてしまったことに、申し訳なく感じた。ぼくが上手く立ち回っていれば、もっと早く彼女の良いところを職場に広めることができたかもしれない。
 
前回書いたが、職場は過去の苦い思い出から男女のいざこざに敏感になっている。
「誕生日に手作りケーキを貰った」なんてことは言い方を間違えれば、たちまち変な噂になってしまう。
今回の彼女の優しさは大ぴらに吹聴できないけど、少しずつでも良いイメージに変えていけるようにするのも、自分に課せられた仕事であるような気がした。

まぁ、たまに「面倒くさい」と感じることもあるけど。

リアルだけど、どこか物語のような文章。一方で経営者を中心としたインタビュー•店舗や商品紹介の記事も生業として書いています。ライター・脚本家としての経験あります。少しでも「いいな」と思ってくださったは、お声がけいただければ幸いです。