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世界の鍵

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5 われらのおそれ

「……現実のあたしらなんて、こんなだかんね」

 寂しげなミュウの一言で、なんとなく場の雰囲気が白けた。俺が口を開く前に、当のミュウが、わざとらしい明るい声でその雰囲気を破った。

「あーやめやめ。暗くなった。乾杯しよー乾杯」

 キムラさんは、黙ってクーラーボックスから発泡酒を取り出すと、俺たちに配った。

「ダメ人間にかんぱーい」ミュウが陽気に立ち上がる。

「ダメ人間の暗い未来に乾杯」キムラ

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4 愛しき自由と……

 その日のパイナップル畑でのキツい労働が終わり、俺は南国の海沿いの道を、バイクで走ってキャンプ場に戻った。

 ゆるゆるとした夕暮れ。離島の空はまだ明るい。生ぬるい風には、壁のような密林からもれる緑色の空気が混じっていた。

 亜熱帯植物が生い茂るキャンプ場の入り口にバイクを止め、夕日を少しだけ見つめてから敷地に入った。落日は驚くほど早く、海との距離を縮めている。開けた芝生の斜面には、赤や紺や黄色

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3 犬の死

 犬は俺の腕の中で死んだ。

 初夏の夜明け間際だった。

 犬の寿命を考えると、20年は無理にしても、15年くらいは一緒に居られるだろうと、ぼんやり考えていた。でもそれはただの楽観だった。9歳の誕生日を迎えた直後、手遅れなほど進行した癌が見つかり、別れは唐突に訪れた。

 そのころになると、散歩に出ようとアパートの階段を降りるたびに、何故か足を止めることが多くなっていた。犬の小さな身体の中には、

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2 世界の鍵

 大学に入って最初の八月……十八歳の夏だった。

 たいして仲良くもなかった友人の、散らかった八畳の部屋に、俺とその日初めて会った女の子は、二人きりで壁に背中を付け、並んで座っていた。深夜で、俺たちをその場所に呼んだ俺の友人とその高校の同級生という軽そうな子は、クスクス笑いながらどこかへ消えた。

 置き去りにされたほうは、茶色のショートボブで、日に焼けた、健康的な子だった。陸上をやっていると聞い

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1 自由と女神

 若いころ、小説家を目指していた時期はわりと短かった。2・3年といったところだろう。

 ある日女神が現れてこう言ったからだ。

「小説家になるのと、小説のように生きるの、どっちがいいですかあ?」

 それは、俺が初めて世界の鍵を見つけてしばらく経ったころで、けれど、その鍵の使いみちはまるで見つかっていなかった。

「それって選べるの?」

「フツウはどっちか選んだりは出来ないんですが、あなたラッ

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