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Photo by
kakukaku_m2
秒速五センチメートル
特有の高まりに
景色の色づきに
ゆるやかなざわめきに
わくわくを隠せないのは
人間だけのことではないのです
窓から流れくる香りに
ときめきを感じながらも
自然とうずうずしながらも
戸惑いを覚えているのは
ねこが初めて経験する季節だから
静かに、ひそやかに、やって来る
あたたかな香りに紛れ
外からの侵入者がゆらゆら
宙を舞うキミに
気がついたねこ
音もなく降りてくるキミを
怖がりながらも
目だけで追いかけるねこ
遠くから見ているだけ
初めて目にするキミの姿
害はない、との判断
近よってみる
それだけでは足りないと
小さな手を伸ばしていく
キミに向かって
キミは、するり、するり
その手から泳いで逃げていく
小さな手が
見えない渦をつくる
その渦が、また、渦をつくる
渦が、キミを、知らないどこかへといざなう
なおも懸命に手を振るうねこ
ようやくキミへとたどり着く
キミを救い出した小さな手
けれど、キミは、逃げてしまう
ひらり、はらり、さらり
キミが着地を決める
キミが動きをやめてしまう
ねこも、とたんに、興味を失う
もう知らない、キミのことなんか
舞っていないキミに、価値はない
そう言っているような
なんとも思っていないような
もういいの
かまってなんかあげないの
キミに向けられていた手の先は
いまは、口もとへ
ぺろぺろ、ぺろぺろ
余念がない毛繕い
その横で、キミは、さびしそう