一日を通して「泉」が誕生する場所で
子どもと共に歩くということは、なんて楽しいことだろう。
豊島美術館のなかを巡りながら何度もそう思えたことが嬉しかった。
大人だけだと目的を意識するあまり、きっと足早に通り過ぎていたはず。
子どもと歩くと、一歩一歩が小さな発見に繋がる。バッタも、ワシも、どんぐりも一緒に見つけると嬉しくなる。
どんぐりを拾い、ズボンのポケットに入れる息子。
あ、どんぐり。
手に取ろうとしゃがんだ拍子にどんぐりが一つ、おしりのポケットからこぼれ落ちる。
気づかないまま、新しいどんぐりを得意げにポケットに押しこむ。
あ、どんぐり。
…その無限のループが愛おしい。
りすの頰のように膨らむポケット。
楽しい散策を終え、水滴のような形をした建物のなかに素足で入る。
コンクリートの床が冷んやりしている。
瀬戸内海を望む豊島唐櫃(からと)の小高い丘に建設されるアーティスト・内藤礼と建築家・西沢立衛による「豊島美術館」。
休耕田となっていた棚田を地元住民とともに再生させ、その広大な敷地の一角に、水滴のような形をした建物が据えられました。広さ約40×60m、最高高さ4.3mの空間に柱が1本もないコンクリート・シェル構造で、天井にある2箇所の開口部から、周囲の風、音、光を内部に直接取り込み、自然と建物が呼応する有機的な空間です。内部空間では、一日を通して「泉」が誕生します。その風景は、季節の移り変わりや時間の流れとともに、無限の表情を伝えます。
コンクリートの床には小さな穴があり、どうやらそこから水が湧き出ている。
水は「おはじき」のように形を留めていたかと思うと、流れ、別のおはじきとくっついて、形を変えた。至る所で水が湧き、また動いていく。
まるで生き物のよう。
天井の2つの大きな開口部から光が差し込み、青空と木々の緑が見える。風の音や虫の鳴き声が響いてくる。
みんなが静かにそれを楽しんでいる。
長い人はずっとここに座っているのだろう。
コンクリートの建物の中は音が響きやすいため、話してはいけない。なのに、うっかり息子は声を出してしまう。もともと舌足らずな息子の喋りは、人の声ともつかず、不思議な音になって小さく響く。
人差し指で息子を制しながら、小さな響きを聴いて、クラムボンの笑う音ってこんな感じかな…なんておかしなことを思ったりした。
二ひきの蟹の子供らが青じろい水の底で話していました。
『クラムボンはわらったよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
『クラムボンは跳はねてわらったよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
上の方や横の方は、青くくらく鋼のように見えます。そのなめらかな天井を、つぶつぶ暗い泡が流れて行きます。
子ども達も豊島美術館、とっても楽しかったようです。感じたことを目一杯メモしていました。
内容を聞いたり、映像で見たりすると、何となく想像がついて、分かったつもりになることがしばしばあります。
どんなに話を聞いていても、実際に行って感じてみないと何なのか分からない場所ってあるんだなというのが豊島美術館の良い驚きでした。
お読みいただきありがとうございました。