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【リスニング】なぜ、単語を聞き逃すのか?

Abstract
わたしたちの脳は時折、一部の情報を意識に乗せることも記憶に残すこともせずに捨てることがあります。(*)
つまり聞き逃すのは、そもそも聞こえていないからなのです。

脳に情報を意識に乗せさせる方法はシンプルで、それを邪魔する余計な刺激や思考をそぎ落とすことです。
今回はその方法を、私の経験に神経科学・認知科学の実験結果で肉付けをする形でお届けしたいと思います。

(蛇足)
実は先日、高校の生徒さんにちょっとしたアドバイスをする機会があり、その結果が興味深かったので記事をっています。
初めてのハウツウ要素のある記事です。

(*)一例として次の報告を紹介する(Marti, Sigman, and Dehaene 2012


1.忘れる脳

この記事にたどり着く方の中には、現役の受験生や共通テストの同日模試で尻に火が付いた方など、時間がない方もいらっしゃると思います。

なので私の悪癖は封印して、休憩時間で読める長さにまとめます。
が、一つだけ大事な前置きにお付き合いください。
その前置きとは「脳が情報を捨てる感覚」を体験することです。
戦いの土俵に立つためにもまずは敵を知りましょう。

早速ですが、この動画で白い服を着た人がボールをパスした回数をできる限り正確にカウントしてみてください。約1分半で終わります。

どうだったでしょうか?
楽しんでいただけた方は今、狐につままれた気分ででしょう。
がっかりした方もいらっしゃるでしょうが、「おおよそ42%の人がこの動画の中でで大きな見落としをする」と聞いたらどう感じるでしょうか?

お次はこちらの動画で不自然な変化を探してみてださい。
先ほどがっかりしたあなたもしっかり狐につままれることでしょう。
約2分で終わります。
(動画の中で言っていることはわからなくても問題ありません。)


研究者による説明の紹介は本文末尾に回しますが、動画を見ていただいた方は既に私がお伝えしたいことがお分かりいただけたかと思います。

私たちの脳はそれだけ大きな情報をいとも簡単に捨て去るのです。

2.『聞き逃し』の発生プロセスと誘因

■『聞き逃し』の発生プロセス
詳述すると長大な研究者の紆余曲折の物語があるのですが、最終的な結論は比較的シンプルです。

まず、リスニング試験時のようにそこに注意を向けているのにもかかわらず、脳が聞いた単語を捨ててしまうための条件は次の2つです。

① 単語が聞こえたときに集中力を要するタスクをこなしていること
② 単語が聞こえ終わってから数10ミリ秒以上そのタスクが持続すくこと

例として、2つのタスクがある場合次のプロセスで情報は失われます。

「前のタスク」が終わるまで「後ろのタスク」の開始が遅延される

「後ろのタスク」のために保持されている情報が時間とともに薄れていく

遅延が数10ミリ秒以上続くと保持されていた情報が消える
Marti, Sigman, and Dehaene 2012

これは最近よく耳にするようになった『脳はマルチタスクができない』という話と本質的には全く一緒です。

まとまった仕事のマルチタスクは効率が下がるだけで済みますが、処理時間が数10ミリ秒で、情報が失われるまでの時間と同程度のタスクを2つ以上同時こなそうとするとその影響は『タスクをこなすための情報の忘却』という
致命的なものになります。

そして聞き取りや意味認識などはまさに処理時間数10ミリ秒のタスクです。
(例えば共通試験の読む速さは150~180rpmと言われており、これは平均すると1単語あたり約30ミリ秒に相当します。)
リスニング中にこれが発生すると、典型的には「どんなに頑張っても思い出せない聞き逃し」という現象として表出します。

■『聞き逃し』の誘因
抽象的な話だけだと分かりにくいので、少し具体例を考えてみましょう。
例えば次のようなケースは多くの方が経験しているのではないでしょうか?
私はしています。

「前のタスク」 = ぱっと出てこない単語の意味を思い出す
「後ろのタスク」= 聞こえてきた単語の認識

そしてさらに次の場合を考えてみましょう。

「前のタスク」 = 聞こえなかった単語を思い出そうとする
「後ろのタスク」= 聞こえてきた単語の認識

沼が見えてきました。沼はもともとあったのですが胸まで浸かったことで本人の視界に入り、焦りだすころあいです。
ここで『前のタスク=脳内和訳』や前のタスク=選択肢を読み返す』、『マークシートのマーク位置を探す』なんかの追い打ちが入ったら…。

不安をあおっても仕方がないので、どうしたらよいか考えていきましょう。

実は、ここまで挙げた具体例がそのまま聞き逃しの直接の誘因となりうる要素になっています。
ちょっと問題→課題という形で整理してみましょう。
noteで表が作れなかったので画像で失礼します。

リスニング_問題と課題


3.時間がある方向けの対策

試験までにまだ一年など十分時間がある方は、根本的な部分から対処しましょう。上の表の①と②がそれにあたります。

これを書くと長くなるので、こちら(↓)の記事を参考にしてください。
英語を英語で理解するために必要なことは何かについて論じています。

もう少し勉強法にフォーカスしたものも準備中なので、随時追記します。


4.時間がない方向けの対策

さて、お次が時間がない方向けです。
年末ころに高校生の生徒さんにちょっとアドバイスをする機会があったのですが、その時に説いてもらった昨年の共通テストのリスニングが50点、そしてアドバイス後、2週間前の同日模試では75点に上昇した方法です。

ここでは『聞き逃し』を徹底して回避することを考えます。
フォーカスするのは③の選択肢の読み方です。
それ以外は本当にちょっとしたことなので最後に紹介します。


■問題を読むことによる『聞き逃し』回避術

やること自体は何も新しくありません。

「ナレーション中やマーキングが終わった時間で後ろの問題文を読むこと」

きっと学校の先生にも塾の先生にも言われて聞き飽きている内容です。
では、「何のために」、「どこまで読むか」をパッと答えられるでしょうか?
私も現役当時はこの観点が抜けており、リターンの少ない努力をしました。

ここで、読んでおくことの目的を明確にしておきます。

① 音声問題が読まれているとき、聞くことに集中するため
② 聞くべきポイントを押さえるため

問題文を事前に読むとき、次のような読み方をしてないでしょうか?
例えば次のように、ナレーションの開始と同時に読み始め、タイムアタックのように読めるところまで頑張って読む。
そしてナレーションが終わると同時に急いで戻り、音声問題を聞き始める。

事前読み

(令和3年 共通テスト、英語、リスニング)

この読み方の問題は、読んだ内容を覚えていられないことです。
戻ってきたときには最初に読んだ問題文はすでに頭に残っていません。
結局、「さて、思い出さなきゃ」と考えながら問題文を読み返すことになります。
そして読んでいる間は常に『聞き逃す』リスクにさらされ続けます。

ではどうするか?
欲張らず、覚えられる長さだけ読めばよいのです。
まずは、範囲を「今の大問」に限定します。
次の大問でもどうせナレーションが入るので、その時に回しましょう。
そして適当なところで切り上げ、最初の問題のポイントを整理します。

事前読み2

① The speaker does not want any juice.
② The speakers is asking for some juice.
③ The speaker is serving some juice.
④ The speaker will not drink any juice.

今回の場合、最初の選択肢が(↑)の3つなので、話し手(たち)の立場と、それぞれの登場人物がジュースをどうしたいと思っているかを気にすればよいことがわかります。

これだけ頭に入れておけば、音声問題を聞きながら自然と必要な情報が頭に入ってきやすくなりますし、問題文がまだ頭に残っている状態なので読み返しに必要な負荷が下がり、読んでいても聞き逃しにくくなります。

以上が聞き逃しにくいポイントです。
言うのは簡単ですが、実際にやると戸惑うこともあるかと思います。
その場合は、先生やよくできる友達に「こんなの読んだんだけどアドバイスあります?」と聞いてみてください。


■それ以外のシチュエーションでの『聞き逃し』回避術

ということで、①と③以外の状況の聞き逃し回避術をサラッと紹介します。

画像4

② 単語の意味がすぐに出てこない
時間がない人向けなので後半の『ド忘れや知らない単語への対処を決めておく』にフォーカスします。
難しいことを考えると試験中に頭が処理落ちするので、なるべくシンプルにすべきで、次の方法が楽です。

・わからない単語が出てきたらそれについては考えない
・気になるならメモしておく。カタカナでも適当なスペルでもよい。

1つの単語がわからなくても解ける場合も多いですし、あとから見たら思い出す場合もあります。
大事なのは、その単語に脳の処理能力を割り当ててしまって『聞き逃し』を誘発することを避けることです。

④ マークしているときに聞き逃す
これも同じで、「あれ?マークシートの場所わからない!」とちょっとでも思ったらあきらめて問題文に丸することです。
私はすぐパニくるので問題文にマークして転記を徹底していました。

⑤ 前の単語を聞き逃して無限ループ
気にするから聞き逃すのです。
忘れましょう。

以上、単語を『聞き逃す』たった一つの理由とその対策でした

あとがき
私は神経科学や言語学が好きなだけの門外漢で専門家ではありません。
間違いや不正確な記述があるかと思いますが、どうかご容赦下さい。
正しくはこうだよ、こう考えたほうがいいよなどご指摘いただける方がおられましたら幸甚です。

また、今回のトップ画像はみんなのフォトギャラリーからnoranekopochi様にお借りいたしました。
素敵な画像、ありがとうございました!

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