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明石わかな | 本
2022年8月16日 16:20
この本は、小説家の主人公が幼なじみの男性を不快に思いつつも憎めずにつきあいを続け、小説の題材にしていく話です。この作家さんは、的確な例えと重く質感のある生々しい描き方が特徴的で、今回は『実験』という本について考えてみたいと思います。あらすじを書いていくと、三十代半ばの売れない小説家の満が、小学校からの幼なじみである春男に対し、友情と憎しみの入り混じった感情を抱きながら交流を続けつつ、春男を
2022年8月8日 14:53
この本は、軽い気持ちでスリをやっていた青年が、スリの腕を見込まれ大きな仕事を手伝うようになり、悪に飲み込まれていく話です。スリというのは、街中で人にぶつかったりした隙をつき財布をとる、盗みの一種ですね。中村文則さんは人間の「悪の部分」を描くのが上手い作家のひとりであり、この話も読む側が暗い世界に入り込めるよう、多くの工夫がなされた小説だと思います。あらすじを書いていくと、スリの腕が抜群
2022年8月4日 17:01
この本は、富士山の近くで過ごした日々の一部を切り取った小説です。太宰治は『人間失格』など、自意識を前面に出した暗い思考を書いた作品が多いですが、どちらかというと明るい雰囲気の小説です。浮世絵に描かれる富士や、他の山から見た鈍い富士の印象を書きながら、茶屋の娘さんや青年たちとの交流を描きつつ、話は進んでいきます。この小説は、太宰治がじっさいに山梨県に滞在していたときのことを元にして書いたと言