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息をするように本を読む 10 〜原田マハ「サロメ」〜

 この文庫本を書店で手に取ったのは、その表紙絵が目に留まったからだ。

 19世紀末の画家オーブリー・ビアズリーが、オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」の英訳版のために描いた挿絵が使われていた。
 
 大学生のときの専攻科目の教授が19世紀末のイギリス文学を研究していたので、オスカー・ワイルドの作品や文献を授業や課題でたくさん読まされた。

 当時、私が知っていたオスカー・ワイルドの作品は子どものころに読んだ「幸福な王子」だけだったので、私はそれまで、彼をアンデルセンみたいな童話作家だと思っていた。

 とんでもない誤解だった。

 ワイルドは19世紀末のロンドン、いや、ヨーロッパ全土で流行していた耽美主義、退廃主義、デカダンスの象徴的存在で、旧時代の知識人たちの眉をひそめさせ、安穏に飽きた一般大衆を熱狂させていた、時代の寵児だった。

 彼の作品はもちろん、服装や言動は常に人々の耳目を集め、一挙手一投足がロンドン社交界の噂話のネタになった。
 
 「サロメ」は聖書に題材を取ったワイルドの戯曲で、その内容が背徳的であるとされ、ロンドンでは上演出来ずにパリで初演となった。

 その戯曲の挿絵を描いたのが、天才画家、弱冠21歳のオーブリー・ビアズリーだった。
 彼の作品はすべて黒のインクのみで描かれる、今でいうイラスト的なもので、緻密で美しく、かつ悪魔的で恐ろしい。
 そして一度見た者の心を掴んで離さない、魅力的な絵なのだ。

 原田マハ作品「サロメ」はこのビアズリーと彼の姉メイベル、そしてワイルドとの三角関係を描く。 

 ビアズリーは早くに父をなくし、母と姉メイベルと暮らしている。幼い頃から身体が弱く、ずっとメイベルが世話をしてきた。
 ビアズリーの才能に早くから気づいていたメイベルは弟の絵が世間に認められるよう奔走する。

 その甲斐あってビアズリーはとある雑誌の挿絵を任される。その頃、ワイルドと出会い、彼の魅力に心奪われてしまうのだ。

 ビアズリーを巡ってのメイベルとワイルドの息づまるようなヒリヒリするようなやり取り。
 ビアズリーのワイルドへの、痛々しい憎悪にも似た愛情。

 
  原田さんの文章が、なぜだろう、翻訳物を読んでいるみたいに感じられ、それがまた、この物語にふさわしい趣きを与えているように思われた。
 読んでいる間ずっと、おしゃれなパリのカフェ、緑濃いマロニエの街路樹、着飾った紳士や貴婦人が訪れる劇場、などが目に浮かぶ。(一度も行ったこともないのに)

まるで洋画を見ているみたいだった。
 
 
 本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。

 学生時代のオスカー・ワイルドとの出会いに深く感謝する。


追記
 この秋、ガラケーからスマホに変更した記念にと家人に勧められて、右も左も分からないまま始めたnoteですが、まもなく2か月になります。
 素人にドがつきそうな拙い文章に目をとめていただき、♡をつけて下さったりフォローまでして下さった皆さまには感謝の思いで一杯です。
 来たる2021年が、皆様にとりましてこの上なく佳き年となりますことを祈念致します。
 ありがとうございました。
 


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