梅雨と出汁と食文化
久しぶりの更新になりました。
とうとう東京も梅雨入りを宣言されましたが、あまり梅雨の気配はなく、曇天でとどまっていく気配があります。
かつお節屋としては、雨や湿気は歓迎できるものではありません。
せっかく干し込んだかつお節に水分が戻ってしまったり、荒節にカビが生えることもあります。
(かつお節に生えた別のカビは、洗い落とせば問題なく使えます)
梅雨直前に干した節はいい具合でしたが、これが梅雨に入ると、またじめじめと戻ってしまいます。梅雨の晴れ間はタイコウにとっては、何をおいても節を干さなくてはいけない時なので、お休みの日でも晴れたら干します。
お休みが無くなるのは私的にはとてもイタイので、できれば平日に晴れてくれたらいいなーなんて、神様にちょっとお願いしてみたりもしますが、そうそう人間勝手な都合は聞き入れてはいただけませんね、はい。
じめじめとすっきりしないお天気のため、体調を崩しがちになることもあり、一般的にもあまり好まれていない梅雨ですが、実は日本の食においては梅雨は大きな意味を持っており、様々なものの一つの境目とされています。
例えば、梅雨の時期に美味しくなるものの代表が鰯です。
入梅の鰯(にゅうばいのいわし)といって、梅雨のはじまる5月~6月は最も脂がのって美味しくなる時期です。今の時期はお刺身にすると、驚くほど脂がのっていたり、煮魚焼き魚にしても、ほろりと身が解けるほどしっとり柔らかで美味しいのです。
弊社で原料として使っている「いりこ」となるカタクチイワシが、燧灘(ひうちなだ)で漁の解禁となるのもこの時期です。
新物のいりこが、今からでもわくわくと楽しみでなりません。
また鱧も、京都では『梅雨の雨を飲んだ鱧はうまい』と言われるほどで、この梅雨が一つの目安とされています。
そして、かつお節の相方の昆布にとっても、梅雨が大きな意味を持ちます。
昆布漁は7月に解禁となり、大体8~9月頃まで収穫されます。(地域や取れる昆布の種類によって差があります)
写真はこんぶ土居さんのHPより許可をいただき引用しました。
早朝の昆布漁の風景です。(とっているのは今や超希少な白口浜の天然の真昆布です。)
収穫された昆布はすぐに乾燥され、じっくりと1年寝かせることで劇的に味が変化し美味しくなるのです。
その目安が梅雨明け。
梅雨明けの昆布は、暑さを超え、寒さを超え、乾燥と湿気を繰り返し、昆布の隠し持つその美味しさが気候の変化と共に凝縮されて、あのえも言われぬ柔らかな味わいと余韻を残す旨味を出すようになります。
それからもう一つの出汁素材の椎茸も、実は春と秋の二回旬があり、春に収穫される椎茸は『春子(はるこ)』秋に収穫される椎茸は『秋子(あきこ)』と呼ばれています。
その椎茸が、昔は木成りのまま乾燥することもあったそうですが、その良い時期は梅雨の直前というのです。湿度が高く、気温が上がりすぎない状態。
現代では基本的に機械乾燥ですし、椎茸もほぼ100%栽培なのであまり旬を意識することはありませんが、昔はやはり椎茸も旬を考えると梅雨が大きく関係していました。
というと、カツオも初鰹はやはり梅雨の時期。
脂の乗らない上りカツオは、かつお節にするのにもってこいだったのです。
かつお節カビが特定培養される前は、自然発生的にカビが付くことを待っていたそうですが、そのカビもやはり梅雨の時期が一番質の良いものが乗るということで重宝されていました。
こうやって考えてみると、日本人や日本の食文化にとって、梅雨というものはとても大きな意味を持ちます。
一年という時間の中で日々刻々と小さくも変化があり、その変化が豊かな食を内包した文化を生み出し、醸成されていったのだと考えると、梅雨に対する向き合い方や捉え方も少し変わってきませんでしょうか。
この、なんとなくちょっとだけぼんやりとした曖昧な時間があるから、豊かさが生まれたと。
日本人の文化は梅雨がもたらしてくれたのかもしれませんね。
ということを、ぼんやりと考えた曇天の一日でした。
文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。