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「こういう日が、いい日なのだな、と思った。」

ああ、そうだ。


全部、昨日起こったことなんだ。


と、思い出した。


(そういえば、昨日のことをすぐに思い出せるのは、とても珍しい。)


朝から、色んな人が疲れているのを見て。


ふと、ぼくも疲れていると、気付いたからなのかな。


朝は、バスに乗って、書店へ向かった。


今日こそ、国語辞典を買おうと。


ぼくが降りる予定の、一つ前のバス停を過ぎて。


けれど、それから、バス内の案内板は、一向に変わらない。


もうすぐ、ぼくが降りるところ……。


ぼくは、停車ボタンを押してみた。


慌てたように、案内板が切り替わった。


そんなこともある、と思った。


書店で買いものを済ませてから、併設のカフェに寄った。


まだ午前だったけど、それなりに混んでいた。


見慣れない店員さんが、何人もいる。


みんな、疲れた顔をしている。


さっきの、運転手さんと同じだ。


自分の番になって、ふらふら、と聞こえてきそうなくらいの、疲労が滲んだ歩き方で店員さんが目の前に立った。


ぼくの思考も、あらぬ方向に飛んでいたのかもしれない。


「アールグレイの、ショートのホットサイズ……」


あああ、とレジカウンターの上に崩れ落ちそうになると、店員さんも同じだった。なにをしているんだ、ぼくは。


店員さんも相当動揺したらしく、アールグレイもショートもホットも、全部確認し直された。申し訳ない。


でも、気が抜けたように笑ってくれていたから、まあいいか、と思った。


少し本を読んでから、家に帰った。


昼は、どうしよう。と思ったけど、どうもこうも、図書館の返却期限が過ぎている本を返さないといけないのだった。


ついでに、最近通っている珈琲屋さんに、デカフェのコーヒー豆(ぼくが焼いたもの)を持っていこうと思った。


彼は、いたく喜んでくれた。


それから、代金を支払うと言って譲らなかったため、持っていった分だとどれくらいになるか計算して、少しだけお金をもらった。少額とはいえ、売買だ。


商売をしているからこその姿勢に、ぼくは尊敬の念を抱いた。


そういえば、彼も少し、疲れた顔をしていた。


午前も午後も汗だくになったけど、悪い気分じゃなかった。


かといって、高揚しているわけでもなく、穏やかだった。


こういう日が、いい日なのだな、と思った。

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