見えない(死んでしまう系のぼくらに/最果タヒ)

「どこにも行かないでね」

そういったのは、
僕だったっけ。
パートナーだったっけ。

どっちでもいいか。
どっちも、同じことを考えているから。

もしも、
パートナーがいなくなったら。

別れるとか離れるとか、そんなんじゃなくて、
「もう二度と」が頭に付く、そんな感じの。

あんなに好き好きといってくれるのに、
(僕も、同じくらいいっているのに)
それを酸素のように吸っている僕は、
いったいどうなってしまうんだろう。

……まあ、どうもならないだろう。
パートナーと心臓を共有していない限りは。

「1人と1人」だったのが、「1人」に戻る。
ただ、それだけだ。

でも、
その事実はいずれ、
綿で首を絞めるように、
ゆっくりと、僕を殺すのかもしれない。

「あなたがいないと、生きていけない」

ありふれたことばだけど、
あながち、大げさじゃないかもね。

僕はまだ、死ぬつもりはない。
もう少しだけ、生きていたい。

だから、
パートナーも死なせないよ。
最低な理由って、思うかな。

死ぬときは、だれでも1人だけど、
せめて、生きているときくらいは、
だれといるのかは、選ばせてほしい。

僕は、ずっと1人だった。
1人でいようが、
大勢といようが、
どちらも、同じことだった。
むしろ、
大勢といるときの方が、1人になることが多かった。

1人。
独り。
孤独。

だれもが、孤独を抱えている(らしい)。
だれもが、満たされていない(らしい)。
だから、あなたは1人じゃないよ――。
そんなもの、なんの慰めにもならなかった。

そんなさなか、
パートナーと出会った。

「1人」と「1人」が出会って、
「1人と1人」になった。

「2人」じゃないよ。
僕らは、別々の人間だ。

僕は僕で、
パートナーはパートナーで、
それぞれの孤独を抱えている。

だれもが孤独を抱えているなら、
そういうことになるんだろう?
だから、「1人と1人」なんだ。

だって、
もし「2人」だったら、
同じことが好きで、
同じことが嫌いで、
同じことを愛して、
同じことを憎んでいると思うから。
でも、実際はそうじゃないから。
「2人」だと錯覚することで、
パートナーをないがしろにしたくないから。

「1人と1人」っていうのは、淋しいことじゃないよ。

僕らは、
違うものが好きで、
違うものが嫌いで、
違うものを愛して、
違うものを憎んでいるけど、
それについては、なにもいわない。
肯定はしないけど、否定もしない。

僕は、それがうれしかったから。
だから、あなたを好きになった。
「1人」が「1人と1人」になった、あのときから。

あなたの不在は、死に至る病。
その病に罹らぬよう、今日も祈る。
あなたが生涯、息災でいることを。

死んでしまう系のぼくらに/最果タヒ(2014年)

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相地
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