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白湯もすっかり冷めていた(フリッツ・ラング監督『M』)
フリッツ・ラング監督の『M』を見た。90年以上前の映画。友人がディスクを貸してくれた。
「すごく怖いよ」と勧められ、「ホラーは怖くないって言ったから、なんか、ものすごく怖いホラーとかか」と思ったけど、どうやら違った。サイコスリラーの元祖らしい。
あれか。「死んだ人間より、生きてる人間の方が怖い」って言ったからか。なるほど。腑に落ちるチョイス。
『M』は、巷を騒がせている少女連続殺人事件の犯人を巡る話。
警察は一向に手がかりを掴めず、民衆相手に強硬手段を使い出し、街全体が不安を通り越し、苛立っている。暗黒街の住人も、街中に警察が配置されているので、仕事ができないと嘆いている。
そこで、警察が、暗黒街の住人が、各々犯人確保に乗り出すことになる。
警察が捜査に行き詰まったとき、「犯罪者には、必ず前科がある。だから、出所したばかりの者、精神病院から退院したばかりの者を洗い出せ」大体、そんな旨のことを言い出した警官がいた。
ぼくはそれを見て、思わず鼻で笑った。いやいや、尻尾すら掴めない犯人なんだから、普段は善良な人間で、犯罪とはほど遠い顔をしていて、けれど抜け目のない性格で。
ぼくの推理は、3割くらいは合っていた。「普段は善良な人間」の辺りは。犯人は、精神病院を退院して、まだ病の影に怯えていた。そして、彼の犯行は、衝動を抑えきれずに起こしてしまうものだった。犯行を止めることが、どうしてもできなかったと。
ぼくは、少し苛立ちを覚えた。『ケーキの切れない非行少年たち』の目次に目を通したときと、同じくらい。私怨の絡まない犯罪は、頭に異常がある人間しか至らないと、言われているみたいで。自意識過剰だけど。
終盤で、暗黒街の住人達の前で、犯人は糾弾された。住人は、大勢いた。とても大勢。どれだけの人数がこの場にいるのか、見せつけるかのようなカメラワーク。
友人が言っていた「すごく怖いよ」は、たぶんここなんだろうな、と思った。怒号が、罵声が、嘲笑が響き渡る。その中にいるのは、たった一人の人間。どちらが悪なのか、わからなくなる。月並みだけど、SNSでよく見る図。映画は、警察が駆け付けて終わるけど。
怖くはなかった。
昔のぼくだったら、怖かったのかもしれない。今はもう、色々麻痺しているから。なんなら、犯人のような立場になったこともある。罪を犯さなくても、似たような状況で、責め立てられることはある。
感想か。
感想は。
警察も、暗黒街の住人も、民衆も、犯人も、全員しねばいい。言葉に出さず、ぼくは吐き捨てた。
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