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そして、いつもの、右往左往

床が、べたべたする。


はだしだから、わかる。


スリッパを履かない朝。


晴れ上がったのに、調子は芳しくなかった。


トーストを齧りながら、「セッション」を聴いた。

泣き出しそうだった。


べつに、悪いことじゃないのだけど。


これでも、午後になる前に、やろうと思っていたことは、終えた。


だからこそ、なのか、色んなことが、どうでもよくなった。


風が強かった。


自室の窓を、ぼくは開けた。


だから、ずっと閉じたままのカーテンを、開けることになる。


空は、晴れなのか曇りなのか、判然としなかった。


でも、それでよかったのかもしれない。


ぼくは、明るいのが苦手だから。


横になって、なにもしなかった。


目が覚めたときは、寒くて。


一作業終えたときは、暑くて。


風がうるさくて、涼しい。


どうにかなりそうだった。


違う。


元から、どうにかなっているんだった。


嫌になる。


食欲がなくなったり、出てきたりをくり返して、遅めの昼食を摂った。


少し元気になったから、出かけることにした。


行ったことのある場所を、行ったことのない道を通って。


それはつまり、他の人なら車で行くところを、自転車で行く、というだけなんだけど。


それなりに遠距離ではあるけど、行けない距離じゃなかった。なにより、坂がないのがいい。


そう思っていたら、雨が降り始めた。


最初は、たいして気にしていなかったものの、だんだん本降りになっていった。


予報では、今日こそ晴れると、言っていたのに。


うそつき。


ずぶ濡れになる前に、目当ての書店に辿り着いた。いつも通っているのとは、別のところの。


お手洗いで服と髪を拭いてから、店内を物色する。


『関心領域』が、なくなっている。と思って腰を上げたら、丁度目の前に見つけた。


『イーサン・フロム』が、気になっている。同じ系列の店舗で見つけたときから。


『理科系の作文技術』興味深かったけど、あくまで理科系の人向けなので、ぼくにはわからない単語がたくさんあった。


ので、結局なにも買わず、併設のカフェへ。


(ここ2ヵ月は、コロナの罹患で、なにもできなかった影響で、おかしいくらい本を買い漁っていた。ようやく、落ち着いたらしい。)


いつもなら、アールグレイを注文するところだけど、メニューに載っている紅茶は、「紅茶」だけだった。


数分後、茶葉を取り出すために、カップの蓋を外すと、甘い匂いがした。


のもとしゅうへい『海のまちに暮らす』を、リュックから取り出す。


真鶴という町で過ごした日々のエッセイ。


知らない土地なのに、そこで風を浴びているような心地になる。


どれくらい、そこにいたのか。気付けば、雨は止んでいた。


次はいつ降るのか、判然としないので、帰ることにした。


体の震えは、止まっていた。

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