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「ぼんやりしていないように、ふるまってる。」

ぼんやりしている。


いつも通り。


いつも通り?


そうだっけ。


ぼんやりは、ずっとだけど。


こんなにぼんやりしているのは、いつからだっけ。


色んなことが、考えられないくらいの、ぼんやりは。


苦しいな。


とは、よく思うけど。


いつも思うようになったのは、どうしてだろう。


どうして、こんなに頭痛がするんだろう。

――おはよう。

――……。

――おはよう。

――……おはよう。

――顔色が悪い。

――よく言われる。

――そうなの?

――語弊はあるけど……だれかに言われるようになったよ。最近になって。

ぼくの顔をのぞき込んで、アルネの目が、少しだけ見開いたようになる。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――具合が悪いの?

――具合……どうだろう。頭が痛かったから、鎮痛薬は飲んだけど。……うん、大丈夫。

――顔色が悪いのに?

――……他の人にも言われたけど、そんなに悪いかな。

――悪い。

――うう……。そんなこと言われても、どうしようもないんだけどな。これでも、ちゃんと食べてるし、ちゃんと寝てる……と思う。

――摂生している方が、具合が悪いの?

――いや、それのせいじゃない……と思う。というか、それのせいであってほしくないな。ただ、

――ただ?

――なんか、感情がだんだんしんでいってる。そんな感じがする。

――一昨日くらいに、ずいぶん顔をしかめてなかった?

――ああ、それはまあ……ものすごく嫌なことがあったせいだけど。……嫌だったけど、安心もしたな。全部はしんでなかったんだな、って。……いや、ものすごく嫌だっただけかもしれない。わからない。

――わからないことだらけなのね。

――わからないことだらけだね。……ずっと、ぼんやりしてる。本当に。今までも、自分はぼんやりしてる、って思ってたけど。最近は、考えごとも、うまくできないくらい。……どうしたんだろうね。

――今日は、なにかお祝いする日じゃなかった?

――そうだよ、お祝いする日。準備もしてる。……でも、ぼんやりしてる。大丈夫かな。

――楽しむことも、むずかしいの?

――そんなことない……と思う。自信ない。ぼんやりしてるように見えないように、ふるまってると、なにもわからなくなる。

――……。

――……。

――ねえ。

――なに?

――この花、きれいね。

――ああ、昨日買っておいた、花束。

――大丈夫よ。

――そうかな。

――大丈夫。

――……そっか。

きっと、他のだれかに言われたら、気を悪くするだけだと思うけど。


アルネが、だから、自分の中にいる自分が、言うのであれば。


それなら。


花束は、今まで手に取ったものの中で、一番色とりどりだ。


大丈夫。


そう思った。

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相地
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