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SFを理解するための次元理論の基礎

 私が書いている記事は、タイムトラベルをテーマにしたアニメや映画、哲学、AI、ジョークを織り交ぜたシュレーディンガーシリーズなど、多岐にわたります。

 SF小説や映画に慣れている方はすんなり読めるかと思いますが、SFに慣れていない方にとっては少し混乱するかも知れません。そこで、今回は『次元』をテーマに、各分野で異なる次元に関する考え方の違いを説明します。ちなみに、私は『ルパン三世』に登場する次元大介も好きですが、本稿では彼の話はしません。

 前回の記事では、唯心論、唯物論、懐疑論について説明しましたが、これらの概念は、自分がいる世界が夢の中なのか、ゲームの中なのか、仮想現実や異世界、霊界なのか、それとも現実世界なのかを扱う映画などを理解する上で重要な基礎となります。以下の映画は、これらの概念が理解できないと、作品の主題が分かり難いかも知れません。

攻殻機動隊 (1995年)
 押井守監督によるアニメ映画です。未来のサイバー犯罪を取り締まる公安9課が、謎のハッカー『人形使い』と対峙する物語が描かれています。人工知能やサイボーグ技術が発達した社会で、意識と身体の境界が曖昧になる中、主人公の草薙素子は、自身の存在の意味について考え始めます。

攻殻機動隊 S.A.C. (Stand Alone Complex, 2002年)
 
テレビアニメシリーズです。シリーズ全体を通じて、個別の事件やサイバーテロを解決しながら、サイバーパンク的な社会構造や、意識の拡張に関するテーマが深く掘り下げられます。『スタンドアローン・コンプレックス』という現象が、個人の行動が集団的な動きに発展することを意味し、シリーズのテーマとなっています。

攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG (2004年)
 
前作の続編で、国家間のテロリズムや政治的な駆け引きが描かれます。技術が進化し、個人のアイデンティティがより複雑に絡み合う中、社会的な問題に立ち向かう公安9課の活躍が描かれます。

攻殻機動隊 ARISE (2013年)
 
シリーズの前日譚であり、草薙素子が公安9課のリーダーになる前の物語が展開されます。テクノロジーと人間の関係がさらに掘り下げられ、社会的、政治的な背景も描かれます。

攻殻機動隊 SAC_2045 (2020年)
 
Netflixで配信された3Dアニメシリーズです。AIが人類の生活をさらに支配するデジタル化された世界で、草薙素子と公安9課のメンバーが新たな脅威に立ち向かう姿が描かれます。

トータル・リコール (Total Recall, 1990/2012年)
 
記憶の植え付け技術によって、現実と幻想の境界が崩れ、主人公が自分の過去や現実を疑い始める物語です。

ダークシティ (Dark City, 1998年)
 
街全体が人工的に操作されており、現実とは何かが問われる映画です。人間の記憶が操作され、真実の世界が歪められることがテーマとなっています。

マトリックス (The Matrix, 1999年)
 仮想現実が実際の世界だという設定で、主人公がその真実に気づき、現実世界と仮想現実の境界が崩れていく物語です。

ザ・シックス・センス (The Sixth Sense, 1999年)
 主人公が霊と交流することで、現実と霊的な世界の境界が揺らぎ、驚きの結末に至るサスペンス・ホラー映画です。

バニラ・スカイ (Vanilla Sky, 2001年)
 現実と夢の区別が曖昧になり、主人公が自分がどの世界にいるのか疑問を持ち始める心理スリラー映画です。

パプリカ (Paprika, 2006年)
 夢と現実の境界が曖昧になり、夢の中の出来事が現実に影響を与えるというテーマのアニメ映画です。

インセプション (Inception, 2010年)
 夢の中の夢という多重構造を持つ夢世界に入り込み、現実との区別がつかなくなることがテーマの映画です。

トランセンデンス (Transcendence, 2014年)
 人工知能が人間の意識を取り込み、デジタル世界と現実が交錯する物語です。現実世界とサイバースペースの境界が曖昧になることを描いたSF映画です。

サイコパス (Psycho-Pass: The Movie, 2015年)
 未来のディストピア社会において、仮想現実や監視技術により、現実と管理された虚構が混ざり合い、現実認識が歪む物語です。

ブレードランナー2049 (Blade Runner 2049, 2017年)
現実世界とレプリカント(人造人間)の境界が揺れ、存在の意義や現実が混乱していくサイバーパンク映画です。

小説
1984年(ジョージ・オーウェル, 1949年)
洗脳と監視社会によって、真実と虚構、現実と幻想が混乱するディストピア小説です。

異邦人(アルベール・カミュ, 1942年)
 主人公が現実世界に対する存在や生き方に疑問を抱き、感覚や認識が歪んでいく哲学的な物語です。

アルジャーノンに花束を(ダニエル・キイス, 1959年)
 主人公の知能が劇的に向上することで、現実認識が変化し、世界に対する理解が崩壊していく物語です。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(フィリップ・K・ディック, 1968年)
 人間とアンドロイドの境界が曖昧になり、現実と非現実、生命と無機物の境界が混乱する未来小説です。

ニューロマンサー(ウィリアム・ギブスン, 1984年)
 サイバースペースと現実が交錯し、仮想世界が現実に影響を及ぼすサイバーパンク小説の金字塔です。

運命論と決定論

 次に、運命が決まっているかどうかや自由意志について考えてみましょう。これらは哲学において、『運命論』、『決定論』、そして『自由意志論』という主要な概念に分類され、それぞれ異なる思想に基づいています。

運命論
 運命論は、すべての出来事があらかじめ定められており、個人の意志や行動に関係なく未来が固定されているとする考え方です。古代ギリシャの運命の女神や、運命を司る神話に基づく伝統がこの思想の根底にあります。この考え方は、物語においてキャラクターの運命が避けられないものとして描かれる場合によく登場します。

決定論
 決定論は、すべての出来事や行動が過去の原因により決定されているという思想です。宇宙のすべての事象が物理法則に従い、過去から未来へと因果関係に基づいて展開されるという考えに基づいています。唯物論者や科学的世界観を支持する哲学者の間で強く支持されてきました。決定論の立場では、人間の行動も自然法則に従っており、自由意志は錯覚に過ぎないとされることがあります。

自由意志論
 自由意志論は、人間が自己の行動を選択できる能力を持っているという考え方です。我々が完全に決定論的な因果関係に支配されているわけではなく、ある程度の選択の自由が存在すると主張します。自由意志は個人の道徳的責任に関わり、倫理学や法学においても重要なテーマです。この思想は、個人の選択や努力が結果を変える可能性をもたらします。

 これらの哲学的概念は、SF作品で扱われる運命や自由意志のテーマを理解するための基本的なフレームワークを提供します。運命論的な物語、決定論的な世界観、自由意志を信じるキャラクターなど、それぞれの概念は作品に深みと複雑さを加えます。

 さらに一歩進めば、次元やタイムトラベル、パラレルワールドの概念を理解することが、SF作品をより深く理解するための必須の基礎知識となるでしょう。

次元の基礎知識

1.数学における次元
数学では、次元は空間の特性や構造を記述するための基本的な概念です。最も基本的な次元の定義は『独立した変数の数』であり、幾何学や線形代数において広く使われます。例えば、平面は2次元、立体は3次元です。線形代数では、次元はベクトル空間の基底ベクトルの数を示し、ベクトルの自由度や空間の広がりを表します。さらに、フラクタル幾何学では次元は非整数の小数次元も存在し、自己相似性を持つ複雑な構造がどの程度空間を満たしているかを示す尺度になります。

2.物理学における次元
物理学では、次元は主に空間と時間の性質を記述するために使用されます。私たちが日常的に体験する空間は3次元(縦・横・高さ)の広がりを持ち、これに時間を加えた4次元時空が一般相対性理論などの理論で使われます。さらに、現代の物理学理論、特に超弦理論では10次元や11次元が仮定されており、これらの次元は非常に小さく『巻き上がっている』とされます。これにより、空間の次元は私たちの感覚では捉えられないが、理論的には存在するとされます。

3.量子物理学における次元
 量子物理学では、次元は主に状態空間(ヒルベルト空間)の概念に関わります。量子力学では、粒子の位置や運動は波動関数で表され、これは物理空間内の次元(3次元空間+時間)で定義されます。状態空間は非常に高次元であり、量子系の可能なすべての状態を含む抽象的な空間です。また、量子もつれや重ね合わせの状態が次元に関連する議論を引き起こし、観測者が異なる『次元』を体験することや、多世界解釈(パラレルワールド)の可能性が含まれます。

4.天文学における次元
 天文学では、一般的には4次元時空(3次元の空間+1次元の時間)が使われます。これは宇宙の構造や物理現象を説明するために不可欠なモデルで、ビッグバン理論やブラックホールの特異点に関する議論で用いられます。また、物理学理論の延長として、超弦理論やM理論では、宇宙は10次元や11次元の構造を持つと仮定されていますが、これらの次元は観測可能ではなく、非常に小さくコンパクト化されているとされます。

5.工学における次元
 工学では、次元は物理的な量の尺度を示します。例えば、長さ、質量、時間、電流などの物理量は、それぞれ異なる次元を持つと考えられます。工学的な解析では、異なる次元を持つ量を直接比較することはできないため、次元解析が行われます。次元解析により、物理方程式が次元的に整合性を保つかを確認し、無意味な計算や結果を避けることができます。

6.経済学における次元
 経済学では、次元はデータ分析やモデル構築に関連します。多次元データとは、複数の経済指標や変数を表すデータのことを指し、各次元が分析対象の異なる側面を表します。例えば、GDP、インフレ率、失業率などの複数の経済指標を扱う場合、それぞれが異なる次元に対応します。次元が増えることで、より詳細な分析が可能となりますが、次元の増加は計算負荷や分析の難易度を増すため、適切な次元削減が必要です。

7.データサイエンスにおける次元
 データサイエンスでは、次元はデータの特徴量の数を示します。例えば、画像データでは各ピクセルが次元に対応し、結果として非常に高次元のデータを扱うことになります。高次元データは『次元の呪い』と呼ばれる問題を引き起こし、次元が増えるほどデータの解析が難しくなるため、次元削減技術(PCAなど)を用いて次元数を減らし、効率的なデータ解析を行います。

8.哲学における次元
 哲学では、次元は物理的な空間や時間を超えた、存在や認識の層を比喩的に表現するために使われます。時間の多次元性や、人間の意識が複数の次元にまたがるという議論が行われることもあります。哲学的な次元の概念は、存在論的な視点から、私たちの世界の捉え方や、認識の限界を探る手段として使われます。

9.オカルトにおける次元
 オカルトでは、次元は物理的現実を超えた霊的な領域やパラレルワールドを表すのに使われます。例えば、『第4次元』や『第5次元』といった概念は、霊的な存在や別世界の表現として用いられ、意識や魂の進化に関連付けられます。オカルト的な次元は、物理的な観測や検証を超えた精神的・超常的な体験を前提とし、ニューエイジ思想や神秘主義に深く関連しています。

10.ルドルフ・シュタイナーの次元観
 ルドルフ・シュタイナーは、物理的な次元を超えた霊的次元を提唱しました。彼の思想では、物質界、エーテル界、アストラル界、霊界といった階層的な次元が存在し、人間の意識が進化することでこれらの次元にアクセスできるとされます。シュタイナーの次元観は、人間の霊的進化を重視し、霊的な次元に到達するためには精神的な修行が必要だと考えられています。

武智倫太郎

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