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映画『DUNE/砂の惑星 PART2』感想 英雄崇拝の否定はまだ道半ば

 ドデカく始まった物語は、まだまだ中途のものとして続くようです。映画『DUNE/砂の惑星 PART2』感想です。

 宇宙を支えるエネルギー源となる「スパイス」の採取地として重要視される砂漠の惑星アラキスの支配を巡り、ハルコンネン家の陰謀によってアトレイデス家は滅亡したかに見えた。だが、子息のポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)とその母のレディ・ジェシカ(レベッカ・ファガーソン)は生き延びており、砂漠の民「フレメン」と共に結託する。フレメンたちに、砂漠の生活と戦い方を学ぶポールは、戦士として着実に成長を遂げ、ハルコンネン家に反旗を翻す。フレメンたちはそんなポールに、伝承にある救世主「ムアディブ」の姿を重ね、指導者として祀り上げようとする。一方、ウラディミール・ハルコンネン男爵(ステラン・スカルスガルド)は、フレメンたちを一掃するために、一族の中でも凶悪なフェイド・ラウサ(オースティン・バトラー)を後継者として呼び寄せていた…という物語。

 フランク・ハーバートによるSF小説の金字塔『デューン/砂の惑星』を原作として、ドゥニ・ヴィルヌーヴが監督として映像化した『DUNE/砂の惑星』の後編に当たる作品。前作を経て、今作できちんと原作『砂の惑星』のラストまでを映像化したものだそうです。
 
 PART1では、壮大な割にゆったりとしたテンポ感で、本当に話を進ませる気があるのかと、勝手にヤキモキしたものでしたが、今作ではその壮大さはそのままでも、きちんと話がサクサク進む脚本になっています。前作はあくまで、物語舞台やSFの設定を説明するための役割を担っていたものというのが、今作を観るとよく理解出来ます。
 
 原作は作品内の時間としても、もっと長い時間を掛けて物語を紡いでいるそうですが、今作でそこは大きく端折っているようです。明示されていなかったと思いますが、長くとも1年くらいしか経過していないように思えました。
 これによって、PART1の分も物語が進む快感があり、前作よりもエンタメ度が増していると思います。物語設定は前作を観たので頭に入っているし、基本「亡国の王子」が復讐を果たす物語なので、話の向かう先は極々シンプルなんですよね。鑑賞したのはIMAXでしたが、映像のド迫力さにも集中して堪能することが出来ました。
 映像技術はもう申し分ないものだし、この技術であれば実写版『風の谷のナウシカ』なんてものも、夢じゃないと思わせてくれるものです。映像の満足度は100点満点と言っていいと思います。
 
 ただ、作品そのものについては、期待以上のものは出て来なかったようにも思えます。先述したように、元々の物語が向かう方向性は決まりきったものであるため、あまり意外性みたいなものは感じられないし、その上、ポールが持つ予知能力というものが、わかりやす過ぎる伏線になってしまい、物語の行方に期待が出来ないものになっています。全て予知通りに進んでしまうので、何か伏線回収というよりは、ただの回収作業になってしまっているように思えます。もう少し、予知映像が違う解釈のものになるとか、仕掛けがあってもいいのにと思ってしまいました。
 
 敵役であるフェイド・ラウサの凶悪さはよく表現されていたと思う一方で、あまりポールとの接点がないため、クライマックスの対決にカタルシスがないんですよね。お互いの顔を認識するくらいのエピソードが欲しいところでした。
 逆に、前作から出ているハルコンネン男爵の描き方は、少ない登場ながらもしっかりと存在感あるものでした。皇帝の玉座への執着もしっかりと感じさせ、悪役としての人物背景を描いたものになっていたと思います。フェイド・ラウサも前作から出しておくべきだったのかもしれません。
 
 そして、何といっても前作の感想で懸念していた「選ばれた者」「戦うことで証明する勇敢さ」というものを否定し切れていなかったのも、ちょっと期待外れだったかもしれません。確かに、英雄になることを否定し続けたポールが、結果として祀り上げられてしまう展開は、少なからずカリスマ指導者の否定かもしれませんが、先述のように予知映像の通り進んでしまうというのもあり、あまり抵抗感がないというか、何か言い訳だけ並べて「致し方なかった感」を出しているようにしか思えないんですよね。

 チャニ(ゼンデイヤ)というヒロインの存在が、その抵抗・否定の象徴となっているのはわかるんですけど、これもちょっと弱すぎて言い訳程度にしか思えないものでした。クライマックスのチャニに対するポールの態度、いわゆるクソ男ムーブそのもので、ティモシー・シャラメの顔でやられると、何かよけい胸糞悪くなってしまいました。
 
 まあ、原作の続きはまだあるようだし、この後の栄枯盛衰までを描くつもりであるなら、結構納得の展開なのかもしれません。この後の展開で、もっと政治劇的な要素とかを入れてくれるんなら、再度期待を出来るかもとも思います。今のままだと、SFにしては単純な争い過ぎて野蛮に思えるんですよね。銀河を統べる座を決めるのが決闘って、そりゃ諸惑星の統治者は納得出来ないでしょうよ。
 
 やっぱり自分の好みとしては、SF作品はディティールがしっかりした日本作品の方が好きなのを再確認しました。『ガンダム』『銀英伝』のリアリティの方が納得出来るものだし、わかりやすいヒロイズムではないものを表現出来ているように思えます。

 とはいえ、映像体験の作品としては、日本の実写作品、アニメ作品共に到達出来ない位置にあるものです。音響の振動を体感出来るIMAXで観る価値のある作品でした。3作目の製作も決定したそうですが、新時代の『スターウォーズ』になることは確定した作品なのでしょう。作中と同じように、まさしく救世主「ムアディブ」として祀り上げられていくかもしれません。


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