戯画リンピック「マスクオンマスク」決勝戦
3つ目のマスクを獲った寺越の手は天高く突き上げられた
東京2020戯画リンピック「マスクオンマスク」決勝戦
私は胸踊らせていた。
山下が颯爽のように表れ軽やかな風が吹き、寺越の存在感で空気が張り詰める。
山下優勢の中、寺越がひたすら食い下がる姿は意地や執念が表れていて私の胸を熱くした。
一進一退の末、2マスク2マスクの状態で山下は果敢に技を繰り出す。蛙、猿に擬態し戸惑わし、得意技
¨トーテムポール山下¨で寺越を後退させる。
明らかに寺越は圧されていた、山下の気迫に勢いに。
驚いたのは次の瞬間だ。
これ以上はPS(ペナルティソーシャル)の距離なのに寺越は一歩踏み出したのだ。
私は寺越の無謀な姿に憤りさえ覚えた。PSが寺越に告げられゲーム終了。
しかしなぜかVAR判定に。
疑問に思いながらVARをよく見ると寺越の一歩に山下自身も驚いて身を引いている。
これをオカリナゆうこは迷いながらも
「ノーカウント」
と告げた。
おそらく寺越は賭けに出たのだ。劣勢のこの状況を覆すには山下が持ち得ていない自分の行動しかないと熟練の感を信じて、勇気ある一歩を山下に向けたのだ。
山下は動揺していた。
自身がこんなに追いつめられたことはなかったのだろう。寺越はその隙を見逃さなかった。リスタートから一気に山下の自陣に走り距離を詰め勝利を手繰り寄せた。
ミスター戯画リンピックの意地、執念がこの一歩を出させ、勝敗を分けた。
山下は泣いていた。
そこに寺越が健闘をたたいあいに近づくとPSの声が…美しい光景が消されていくこの状況の煩わしさを感じずにはいられなかった。
決勝後のセレモニーも印象深い。
それぞれ全てのマスクを外し地中に埋めて初めてあらわになったお互いの顔を見つめて、PSの距離を越えて身体と身体が触れるギリギリの距離で観客席を向き一礼。
マスクというものに感謝しつつ要らなくなる状況を、ソーシャルディスタンスが、PSがなくるなる状況を願い示唆してるのかもしれない。
そう、戯画リンピックは問いをくれるのだ。
世相に由来してる競技だからこそ、社会への、そしてその時代に生きている自分への問い。
私はこれからも追い続けるだろう、この戯画リンピックを。
追記
オカリナゆうこ氏の深みのある音、コロナにより観客を絞った中で唯一ともいえる観客のミスターハマっ子氏の存在意義、彼らがいてこの戦いはより素晴らしいものになった。私からも本当に感謝を述べたい。
■東京2020戯画リンピック■
「マスクオンマスク」決勝戦
山下智代 2 - 3 寺越隆喜
文=中谷計
写真=オカリナゆうこ
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