世界一小さな芸術祭2023レポート⑤〜はとのいえ「ねりけし」〜
「今回明大前じゃないですか!まず鷹の目いきましょう、ケイさん」インタビュアーのゴン田中(通称ゴン)はラーメンが好物だ。鷹の目とは明大前駅の目の前にある二郎系のラーメン屋らしい。
私はあまりラーメンは食べない。ましてや二郎系というとマシマシ、アブラ多めなど胃に多大な負担があるイメージが強いので遠慮しとく事にした。
「え〜いかないんすか!めちゃくちゃうまいのに‥おれ食べてからいきますね!」
ゴンは颯爽と店の前の食券を買い行列に喜んで並んでいた。行列さえも喜びになってしまう食べ物は私にはない。羨ましいものだとゴンをみていて思う。
寺越たちは明大前駅近くのくじら公園で公開クリエーションをやってるらしい。スマホで調べたがくじら公園はだいぶここから離れている。この距離を歩くには時間がかかる。寺越たちはあそこまでどうやっていったのだろう。寺越に連絡するが返信がない。タクシーに乗ってしまおうか思案していた時に見たことある人が通りかかる。
あれはオカリナゆうこさんだ。
戯画リンピック2021「マスクオンマスク」でオカリナを担当していた方であり世界一小さな芸術祭2021では作品も展示していた。
もしかしたらオカリナゆうこさんも公開クリエーションを見に来ているのでは、と睨み後についていく。明治大学を通り過ぎ脇の道に入っていく。その先に開けた公園があった。
そこで彼らを発見した。
私のよみは当たっていた。寺越にくじら公園の場所の事を説明すると驚いた顔をして”このくじらのオブジェがあるからてっきりくじら公園だと思ってました〜っていうかくじら公園って他にあるんですね”
本当にコイツは‥と思いながらもとりあえずゴンに正確な場所を連絡する。
寺越と一緒にいるのは、はとのいえという即興芝居ユニットを組んでいる佐竹謙伸さんと三戸海実さんだ。佐竹謙伸さんがやってる稽古会に寺越が参加してこの芸術祭に誘ったらしい。
三人で話しながら方向性がどんどん決まっていく。佐竹謙伸さんがどんどん提案して三戸海実さんがそこを補完するという関係性が創作を豊かにしている印象がある。寺越はうまそうにタバコを吸っている。本当になんなんだ、コイツは。
いつの間にか公園に到着していたゴンがニンニクの香りを漂わせながら、時折佐竹謙伸さんや三戸海実さんに話しを聞きにいっていた。スランプからは脱出したようだ。ニンニク臭なんか気にせず好きなように人と向き合えばいい、ニンニクゴンよ。
暫くして決まったものが、どうやら電車に乗り指定の駅で降りて即興芝居をはとのいえの佐竹謙伸さん、三戸海実さんがやるという流れだ。
寺越がガイドのような役割を担う。アイツにそんな役割がうまくできるとは思えないが、それは私の心に留めておこう。
「電車っすか!面白そうっすね〜!降りた駅のラーメン屋調べとこうかな」ゴンよ、今ラーメンの頭になっているぞ。あと今お前はニンニクゴンだぞ。
電車を想定してこの公園でなんとなくの流れをやることに。
”明大前〜明大前〜ドア開きました。改札おります。「まもなく即興芝居始まります」のフリップ出ます”と寺越が設定を言うと
三戸海実さんが出てきて待っている。
”「即興芝居開演中」のフリップ出ます”と寺越
奥にいた佐竹謙伸さんが神妙な面持ちで三戸海実さんの元へ近づいてきて即興芝居が始まった。この時のものは瑞々しく儚い即興芝居だった。
「もう若さ溢れ過ぎてる!マジ青春」ゴンが言うように確かに瑞々しいエネルギーを強く浴びた。
”「To Be Continued‥即興芝居ユニットはとのいえです 公式QRコード」のフリップでます。
「次の駅でお会いしましょう。ついてきて下さい」のフリップでます。でおれが案内するっていう感じかなぁ”
と寺越が言うと同時にガイドが一番心配だ、と私が思ったのは言うまでもない。
”じゃあこんなに見に来てくれてるから今から電車のっちゃいましょう、いいですよね?”
本当に勢いだけで生きてるなこの男は。
でもそこに振り回されるのも嫌いではなくなってきていた。
はとのいえの二人が世田谷線でやる事にしたため明大前から下高井戸駅まで歩く。
「ブラリ途中下車の旅みたいですね。ああいう系の番組好きでよく見ちゃうんす。まさか体験することになるなんて」何を言っているのだ、ゴンは。とりあえず空返事をする。
ここから下高井戸駅から世田谷線にのって山下駅、松陰神社前駅、西太子堂駅と降りてその駅その駅で即興芝居をやっていた佐竹謙伸さんと三戸海実さん。そしてガイドとして誘導する寺越。
私は世田谷線は始めて乗った。電車内外の感じ、車窓からの景色、知らない駅で降りた時、どれも新鮮さで溢れていた。
そして佐竹謙伸さんと三戸海実さんの即興芝居はどの駅でも関係性などの設定を変えてやっておりコチラも新鮮で、なんといってもやはり瑞々しいエネルギーに満ちていた。
ゴンが帰り道で興奮気味にまくしたてる
「やっぱり、ぶらり途中下車の旅ですよ!これはブラタモリならぬブラはとのいえですよ!」
実際体験してみてゴンの言っていることが少し分かった。
「はとのいえの即興芝居みてると青春時代を思い出しますよね。眩しいよ、はとのいえ〜!」
走り出すゴン。放っといておこう。
私は即興芝居を今回初めて拝見した。この日何回かみて即興芝居というのは人間性が溢れ出てくるものなのかもしれないと感じた。
佐竹謙伸さんと三戸海実さんの事を私はあまり知らないがこの即興芝居を通して彼らはこういう人間なのかもしれないというのが薄っすらみえてきた。
時間をかけて生み出すものと違って即興は瞬発的なものなので自分の引き出しをつかうしかない。その引き出しやその先にみえてくるのが人間性なんだろうと今回感じた。
はとのいえの佐竹謙伸さんと三戸海実さんの会話は心地が良い。これは彼らの相性の良さを物語っているのかもしれない。混じりっけのない彼らのエネルギーが瑞々しくうつるんだろう。
ニンニク臭い息をきらせながら戻ってきたゴンが
「ハァ、ハァ、ケイさん!三茶に旨いラーメン屋あるから今からいましょうよ!」
さっき食べただろう、またラーメンか、どんだけラーメンが好きなんだ、様々な事が頭をよぎったが受け入れて流されてみようと思いゴンの誘いにのった。
あ、そうか、はとのいえの即興芝居もまずは相手の提案を受け入れるところから始めてた。
受け入れていかなければ社会でも他者と共存はできない。それは生きてる限り続いていくだろう、一人で生きていく事はできないから。
「ケイさん!!!早くいきましょうよ!!」
ニンニクゴンが呼んでる。
私も明日はニンニク野郎になるのを覚悟してゴンの元へ走っていった。
文 中谷計
チラシデザイン 吉田みずほ
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