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シュタイナー(ウォルドルフ)教育とは?森の幼稚園の理念と実践方法 Part 1

アメリカにはユニークな幼児教育の学校がたくさんありますが、私の家の近所にも私が個人的に「理想的!」と思える幼稚園を発見しました。それは、豊かな自然環境の中でシュタイナー教育を実践している「エイコーンヒル(どんぐりの丘)・ウォルドルフ幼稚園&保育園」です。

この幼稚園の理念は私が自分の子供たちにしてきたことと非常によく似ていて、もし彼らが幼かったら、間違いなく通わせていたでしょう。

この幼稚園は、自然との触れ合いを通して、子どもの自主性や創造性を育むことを大切にしています。一見するとただの「森の中の保育園」「自然の中で自由に遊ばせるだけの幼稚園」のように思えますが、ここで実践されている幼児教育の方法は、私の専門分野である応用行動分析学(ABA)や認知発達心理学などの科学的根拠とも一致しており、非常に理にかなっているなと感じました。
100年以上前のシュタイナー自身がこのような科学的な視点を持っていたとは思えませんが、結果として子供たちの自然な発達を促す理想的な環境が提供されていると実感しています。

本ブログでは、エイコーンヒル幼稚園のウェブサイトとYoutube から、この幼稚園がどのようにその理念を実践しているのかをご紹介します。

エイコーンヒル(どんぐりの丘)幼稚園&保育園

エイコーンヒル・ウォルドルフ幼稚園&保育園は、メリーランド州シルバースプリング市にある55年の歴史を持つ「森の幼稚園」です。
5エーカー(サッカー場約3倍、東京ドームの約半分)の森の中で、3歳から6歳までの子どもたちが楽しく学んでいます。

体験で学ぶ

ウォルドルフ教育では、「体験で学ぶ」ことが重要視されています。子どもたちは遊びを通して五感と身体を使い、世界の仕組みを自然に理解していきます。

シーソーで遊ぶことで「てこの原理」を体感し、タイヤを丘の上から転がすことで重力や加速度の仕組みを理解していきます。また、火を使うことで、どのようにすれば火が強くなるかを実体験を通して学びます。火が大きくなる過程を観察しながら、酸素と燃焼の関係を体験的に理解していくんですね。

また、ウォルドルフ教育では、数字や計算を教えることはしません。遊びの中で実体験として学びます。例えば、おやつを平等に分ける際に数を数えたり、計算をしたりすることで、自然に算数の理解が深まります。

遊びで学ぶ

ウォルドルフ教育では「遊び」は子供に欠かせない仕事として捉えられています。遊びを通じて、子どもたちは仲間との複雑な関係を学び、「どのように物を分け合うか」、「誰が先に行くか」といった交渉を子供達が自ら決めていきます。

これらの経験は、将来、大人になり社会での役割を果たす際に非常に重要なものとなります。幼少期に自然の中を走りまわり、砂遊びやごっこ遊び、植物を育てたり、パンをこねて焼いて食べたり、絵を描いたり、走り回ったり、様々な体験をすることで、子どもの想像力が育まれます。この体験は、子どもが成長し学問に向かう際にも、複雑な人間関係を築いたり、仕事でのチームワークや創造的な問題解決にも非常に役立ちます。

「驚き」や「喜び」を感じることが、学びのベースを作る

この幼稚園の子どもたちは、自然の中で太陽の光を肌に感じながら、体を動かし、五感をフルに使って世界を理解しています。

たとえば、森の中で見つけた小さな虫や葉っぱの模様に驚き、その感触や匂いを確かめながら、自然と触れ合うことで「発見」の喜びを味わいます。こうした経験が「もっと知りたい」という好奇心を引き出し、さらに探求する力を育てていきます。

幼少期に感じる「驚き」や「喜び」は、子どもたちにとって新しいことを「学ぶ楽しさ」の源であり、学びへの意欲や世界を前向きに捉える視点の土台となります。このような感情的な体験が、将来的な学びや社会的スキルの発展において重要な役割を果たし、豊かな人生の基盤を築くのです。

自然との触れ合いと日常のリズム

ウォルドルフ教育では、自然との関わりを大切にし、日常の活動に取り入れています。

この幼稚園では、すべてのクラスに焚き火があります。焚き火は石で囲まれているため、子どもたちは安全に過ごすことができます。そして各クラスでは、毎朝、その焚き火を使って外で有機野菜を調理しておやつとして食べます。

毎朝、登園した子どもたちは、自分専用の手作りの木のフックにリュックを掛けます。ウォルドルフ教育では、幼児期に文字を使用しませんので、名前のタグをつける代わりにリスや魚などのシンボルが描かれています。

幼児期に文字を使わない発達心理学的な理由とは?

ウォルドルフ教育では、幼児期に文字を教えることはしません。なぜなら、子どもたちがまだ具体的な体験や感覚を通じて世界を理解する時期にあるからです。幼少期の子どもたちは、五感や身体を通じた体験によって、物事を深く理解します。この時期には、目で見たり、手で触れたりする具体的なものが、子どもたちの学びや発達にとって重要です。

例えば、私たちは「りんご」という音を聞いて、頭の中でりんごのイメージを思い浮かべるのは簡単です。「りんご」という文字を見ても簡単にイメージできますが、もし アラビア文字 で書かれていたらどうでしょうか?

「تفاح」を見てイメージできるか?

「تفاح」はアラビア語でりんごと書いてありますが、初めて見る人にとっては、どの文字がどんな音を表すのかもわかりませんし、これを見てもすぐに「りんご」という音やイメージに結びつけることはできませんよね。このとき、脳は新しい形(アラビア文字)を覚えるだけでなく、その文字を日本語の「りんご」という音やイメージと結びつける作業をしなければならず、とても難しいと感じます。

これと同じように、子供が文字を初めて学ぶときも、まさにそのような感覚を味わっているのです。大人が「り」「ん」「ご」を見て簡単に「りんご」とわかるのは、すでに脳がそれを何度も繰り返し学んで、自然に結びつけられるようになっているからです。しかし、子供にとっては、まるでアラビア文字のようにまだ見慣れていない「記号」にしか見えないことが多いのです。

ピアジェの認知発達理論から考えてみよう

発達心理学の観点からも、子どもたちの認知能力は段階的に進化し、特に幼児期には具体的な経験を通じて学ぶことが最も効果的です。この発達段階を理解するために、ピアジェ(Jean Piaget)の認知発達理論がよく参照されます。

1. 感覚運動期(0〜2歳)
特徴: この時期の子どもは、主に五感(触る、見る、聞く、味わう、嗅ぐ)と運動を通じて世界を理解します。物事を具体的に操作し、目に見えるものや触れるものを通じて学びます。物が存在するということを理解する(対象の永続性)もこの時期に発達します。

2. 前操作期(2〜7歳)
特徴: 言語の発達が著しく、シンボルやイメージを使った思考が始まりますが、まだ論理的思考は未熟です。子どもたちは、具体的な物事や出来事を中心に考え、視覚的・感覚的な情報に依存して理解を進めます。自分の視点を中心に世界を理解する「自己中心性」が強いのもこの時期の特徴です。
抽象性の理解: 抽象概念(数や文字)はまだ十分に理解できません。具体的なシンボルや実体験に基づいた学びが中心です。例えば、リスや魚などのシンボルは具体的でわかりやすく、子どもたちに親しみやすいものです。

歌と動きを通じた学び

ウォルドルフ教育のもう一つの特徴は、歌や動きを通して学ぶことです。日常生活の中で、歌は子どもたちにリズムと秩序をもたらし、活動の切り替えをスムーズに行うための大切なツールです。

例えば、片付けの時間になると「片付けなさい」と命令するのではなく、先生たちは片付けの歌を歌います。すると子どもたちは自然と行動を始めます。同じように、手洗いやおやつの時間も歌を合図にして、日常のルーティンが心地よく進行します。

歌は感情表現や自己表現の手段としても重要な役割を果たし、リズムやメロディを通して、言語能力や表現力を伸ばしていきます。また、季節ごとに歌う歌を通して、自然とのつながりや季節感を感じ取り、感受性が豊かに育まれます。

また先生たちは、子どもを遠くから大声で呼びかけることはせず、静かに近づいて優しく声をかけます

こうしたアプローチによって、子どもたちは優しさや思いやり、礼儀を自然に学びます。

構造化と非構造化(自由)のバランス

この幼稚園では、日々の活動に「構造化された時間」と「自由な時間」のバランスが取り入れられており、子どもたちは自然と何をすべきかを理解できるようになり、安心感を得ながら、自己表現や創造性を育む機会を持つことができます。

エイコーンヒル・ウォルドルフ幼稚園では、このような豊かな学びと体験を提供することで、子どもたちが自発的に成長し、想像力を最大限に発揮できる環境を築いています。

現代の生活と自然教育への回帰

シュタイナー教育が開発された100年前には、このような幼児教育は全く普通のものだったのだろうと想像します。しかし、この100年で私たちの生活は大きく変化し、今ではこのような伝統的な自然教育に憧れを抱くようになり、それが人間性の本質であると感じずにはいられません。

私たち人間は、自然の中で数万年もかけて進化してきた生き物です。生活環境が大きく変わったのは、ここ100年ほどのことですから、現代の生活にストレスを感じたり、心身の健康を損ないやすいのは当然のことです。だからといって、現代文明を否定したり、昔に戻ろうというのではありません。

おそらく100年ほど前には、「意識の高い人々」が子供たちに読み書きや算数などの学問を教え、それが将来の成功につながったのでしょう。そのため今でも「小さい頃から勉強すると将来成功する」と考えられていますが、本当にそうなのかは疑問です。100年前の人々は自然環境の中で身体を使って手作業の生活をしていました。ですから、ここで紹介されているようなシュタイナー教育のような生活に加えて、学問を学ぶことで、将来成功できたのだと思います。

しかし、今は自然の中で体を動かすことが少ない環境です。車や携帯電話、パソコンなどの電子機器を使いこなし、体を動かす必要が大幅に減りました。娯楽もゲームや動画鑑賞など、実体験を伴わないものが中心です。

このような環境で、幼い頃から読み書きや算数を無理に学ばせても、本当の意味で理解し学ぶことはできません。なぜなら、子どもは実体験を通してしか学べないからです。実際に見たことも経験したこともない内容をただ暗記しても、使う機会がなければすぐに忘れてしまいますよね。

子どもは遊びを通してあらゆることを学び、遊びを通してストレスを発散します。遊びが楽しいから、その途中で困難にぶつかっても、遊びを続けたいがためにそれを乗り越えることができるんです。人にやらされていること、つまらないことをやっている時に困難にぶつかったら、大抵の人はそれをやめてしまうでしょう。

辛いこと嫌なことを乗り越えられるのは、そのこと自体に楽しさを感じているからできるのです。トライ&エラーを繰り返し経験することで、物事の多くを学べるだけでなく、失敗に打ち勝てる精神力も養われます。

何万年もの間私たちの祖先が楽しんできた自然の中での遊びや人との関わりが少なくなった現代では、大人も子供も心身の不調を訴える人が増えるのも当然なのでしょう。環境が昔とは正反対になっているので、私たちはあえて自然環境の中で子供を自由に育てようとしたくなるのかもしれませんね。

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先日、実際にどんぐりの丘幼稚園に行って参りました!もしご興味があれば以下の記事Part 2もどうぞ。


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