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そうなってしまったら、そうなる前の世界には戻れなくなるでしょうが。
たいそうなタイトルなようだが、トイレの話である。
先日、テレビをつけたところ、トイレの消臭剤のCMが久しぶりに目に飛び込んできた。
商品の詳細は忘れてしまったが、共用のトイレで臭いを残さないための、スプレー式消臭剤のCMだった。
今、自分は会社員でもなく女子高校生や大学生でもないから、もうこういったものを使うことはない気がするのだが、いや、気にする人は映画館やショッピングモールへ行くのにも、バッグへ忍ばせるのかな。女性に限らず、今時は男性でも持っていたりするんだろうか。
やめてくれやな。
19歳で中国に初めて行ったときのことを急に思い出しながら、そう思った。
あれは中国の空港だったか駅だったか、初めて「ドアのないトイレ」を目の当たりにし衝撃を受けたのだが、その数か月後、ドアどころか、壁すらない、床にただ穴がいくつも空いただけの公衆トイレに北京の片田舎で遭遇した。そして、実際にそこで用を足す女性たちの姿を目撃し、大衝撃を受けた。郷に入れば郷に従いたい派の自分も、さすがにそこで用を足すことができなかった。小ならまだしも……大は絶対に無理だと思った。
19歳の私は、そこで「音姫」のことを思い浮かべたのだった。
当時、日本の公共トイレではすでに音消し装置が普及していた。私が中学生か高校生の頃に、学校でも導入されたのを記憶している。
トイレの個室で用を足す音を消すために電子音を流す、日本ではこれがスタンダードになってきております。
しかも音量調節もできるんです(基本最大まで上げてます)。
壁ナシトイレで用を足している中国人女性たちをぼんやり眺めながら、彼女たちに日本のこの文化を説明したら、どう思うのか、1人ずつインタビューして回りたい気分になった。は?意味わかんない、って言われる気がした。そんなの必要ないでしょ、と。
しかし、日本では、音姫を使わずに、ブーッと爆音でも立てようものなら、「恥ずかしい」という認識を私は持っていた。思春期などは、尚更だった。
今でこそ「ゴメン!もしかしたらブリブリ聞こえちゃった?」などと私は言えるだろうが、10代の頃などはとんでもない。多感な時期、悪口や仲間外れの対象になるのではと恐れる心を持っていたはずだ。うっかり音を立てて、ひそひそ話でもされた日にゃ、学校に行けなくなる可能性だってあった。毎日がヒヤヒヤの綱渡りだった。
音姫が悪いわけではない。音を立てることを極端に恥じる文化があることが問題だ。しかし、音姫が普及したことで、「音を漏らすことは起こりえないし、あってはならないこと」として人々に意識づけされてしまった気がするのだ。
罪深いんだよな。
日本の、こういう文化に対して、さらにガチガチに逃げ場なくしてしまうような商品が。
そういう意味で携帯用の消臭スプレーなども、
あたかも「最低限のエチケット」という認識をくっつけて販売しているだろう。私も会社勤めしているときは「ほしい!」と思っていたし、今4歳の娘がいつか「ほしい!」と思うなら買ったらいい、と思う。
でもね、本当はそんなもの必要ないんだ。みんなブリブリするし、臭いを残すものなんだ。それが生き物として当たり前のことなんだよ。わざわざ不燃ゴミを増やし、化学物質を個室で蔓延させるなんて不自然なことだと思わないか?
みんな、中国のあのトイレを一緒に見に行ってみないか?そして、何を恥じて、何を恥じなくてよいか、今一度みんなで考えてみないか?
私、誰に言っているんだろう。
少し未来の思春期の娘と、仲良くしている女の子の4人くらいに熱く語りかけている自分の姿が浮かんだ。今ワイン2杯目。妄想が進む。
ちょっとトイレ行ってきます。
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![長橋 知子](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/95945708/profile_722af308628c74b899302b02f2a983ae.png?width=600&crop=1:1,smart)