マガジンのカバー画像

おはなし

6
運営しているクリエイター

記事一覧

白鷺とチャーハン 第1話

白鷺とチャーハン 第1話

<幼稚園生 あやね>
あの日あたしは、すっごく怒っていた。
お母さんは朝からずっと「早く早く」しか言わないし、「もう自転車でも
大丈夫そうだから、お兄ちゃんの靴下買いに行くよ!お兄ちゃんが学校から帰ってくる前に戻ってこないといけないから!」と私のじゃまをした。

昨日までごうごう言っていた、こわい風の音がしなくなって、楽しく
お絵かきしてたのに。こんな時「家にいたい」なんて言ってもお母さんは
ぜっ

もっとみる
白鷺とチャーハン 第2話

白鷺とチャーハン 第2話

<幼稚園生 あやね>
自転車の椅子に座って、
お母さんを目でおいかけていると、
どうろをわたる信号のところに
だれかがたおれているのがみえた。
女の人みたいだった。

お兄ちゃんと私がケンカした時の
鬼みたいな顔とはぜんぜん違う、
でもすっごくいっしょうけんめいな目で、
お母さんはその女の人のところに走っていく。

何かがいつもとは大きくちがくて、
「お母さん、何してるの?早く行こうよ。
靴下買い

もっとみる
生活,しいたけの天ぷらの ①

生活,しいたけの天ぷらの ①

【こんな時期だからこそ、
アホアホなお話を書くことにしました】

オレこと、しいたけの天ぷらはその日
(も、というべきか)憂鬱だった。
だって、きっと今日も
せっかくのかっこいいイガイガの衣は
外されちゃうだろうし
「においがくさいからイヤ」と顔を
しかめられるに決まっているからだ。

この家の長女ゆうかは、14歳。
春から中学3年生だ。
まだ14年しか生きていないような
感じもするが、女子という

もっとみる
生活, しいたけの天ぷらの ②

生活, しいたけの天ぷらの ②

【アホアホなお話の2回目】

さて、本日も外側はさっくりと、
内側はしっとりと、揚げあがった。

この家は少し変わっていて、
天ぷらが食卓にあがる時に、
塩・天つゆと共にウスターソースが並ぶ。

なんでも、夫の泰之が会社員なるものに
なりたての頃、課長とかいう人に
連れられていったお店で
ソースが一緒に出されたらしい。

その味に衝撃をうけて以来、
泰之は天ぷらを食べる際に
必ずソースをセットし、

もっとみる
生活, しいたけの天ぷらの ③

生活, しいたけの天ぷらの ③

【アホアホなお話 3回目】

「ちょっと!スナップえんどうもいいけど、
天ぷらも熱いうちに食べてよ」
たえさんが、少々ピリッとした声で
子供たち+泰之に訴えかける。

彼女は(まあ、料理が好きだったり
得意だったりする人は誰でもそうかも
しれないが)熱いものは熱いうちに、
冷たいものはその温度で食べるのが
サイコーと信じているので、
揚げたての俺たちが皿の上で、
無残な油を吸ったベシャッとした衣に

もっとみる
生活, しいたけの天ぷらの ④

生活, しいたけの天ぷらの ④

【アホアホなお話4回目】

俺の肩(しいたけにも肩はある)に
ほんの少し触れた
かぼちゃの天ぷらのあったかさに
思考がやや飛びそうになる。
しかも温かい空気に乗って
ほんわりと甘い香りもやってきた。

「友達になりたいんだけど」

このだいだい色のかぼちゃってやつは
確かにそう言った。
「ぬ」
俺は予想外のことすぎて、
何かよからぬ思惑があるんじゃなかろうか、
こいつと身構えた。

「ねぇ、聞こえ

もっとみる