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発泡スチロール,実は-[KASHOUMON][KABUKIMON]浅香弘能@銀座蔦屋書店
銀座シックス6階、銀座 蔦屋書店。
エレベーターで上がってすぐのスターバックス前。
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何かの準備中、あるいは、発泡スチロールの立体作品だと捉えて、過ぎ去る人も多かったかもしれない。
だが、もし足を止めて、じっと見たなら……。
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その素材と表現に驚き、作品を凝視してしまうことになる。
「KASHOUMON」の素材は
作品展示は、10月13日まで。どうしても行きたいと思いつつ、最終日の夕方にやっと足を運ぶことができた。
浅香弘能は、京都造形芸術大学美術学科を卒業後、国内外多数の個展・グループ展で20年以上にわたり、石を素材とした様々な彫刻作品を発表してきました。
本展では、まるで発泡スチロールのように石を彫り込んだ「KASHOUMON」シリーズと、「武士道と反骨精神」をテーマに刀をモチーフとして石を極限まで削り出した「KABUKIMON」シリーズを同時展開します。(後略)
じっくり鑑賞したかったのは「KASHOUMON」。
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目の前にあるのは、間近にみても「発泡スチロールの箱」であるのだし、ご丁寧に「プラ」とまで掘られている。ならば疑いようもない。
ただ逆に、「これは、プラではない」という視点で疑り深く見ていけば、やっとのことで気づける。
たとえばこの光沢。大理石の高級感がふと顔をのぞかせ、「やっとわかりました?」とほほ笑んでいる。
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この「やられた!」感は、現代アート鑑賞の醍醐味のひとつだとわたしは感じる。
ここまで? というまで創りこむ、リアルな造形。
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「KASHOUMON」シリーズは、古代ギリシャの哲学者プラトンのイデアでいう「現象」に対する「仮象」と錯覚というコンセプトをもとに「真のリアルとはなにか」を追求した彫刻です。硬く重い天然素材の石を用いて、柔らかく軽い人工素材の発泡スチロールを表現した、人間の固定概念をくつがえすような視覚的効果を利用した超写実的な具象彫刻ともいえます。
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発泡スチロール製に見える、大理石の仏像
インフォメーションカウンター前の展示。
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原罪のリンゴなのか、Apple創業のリンゴなのか、それとも発泡スチロールに見えて実はね、という秘密なのか。
それから次の作品も、一瞬「えっ」と、観るものを戸惑わせる。
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「発泡スチロールで作ったように細部まで見せながら、じつは大理石に掘った仏像」という、アクロバット感。
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本展では、円空をモチーフにした最新作を公開します。浅香は、道具の痕跡や作者の手跡が作品性に大きく関係する彫刻表現において、自身の作品と円空仏の大きな特徴であるダイナミックな鑿跡(さくせき)による表現に共通点を見出しました。新作《KASHOUMON -ENKU-神像 》は、一見すると発泡スチロールを熱線で切ったかのように見えますが、円空表現と同じく一体一体丁寧に彫り上げた石仏です。
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「KABUKIMON」
こちらは、今回出展のもうひとつのシリーズ、「KABUKIMON」
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「KABUKIMON」シリーズは、日本刀をモチーフにして武士に通ずる魂を表現した唯一無二の作品です。刃物で有名な大阪府堺市で育った浅香は、幼い頃から伝統的な日本刀作りに慣れ親しみ、湾曲した日本刀の機能美に魅せられてきました。何世紀にもわたって日本の美術を形作ってきた伝統に敬意を払い、彫刻の美しさとサブカルチャー風の要素を融合させた独自の世界観を目指しています。
夢だった?と思うような
何度か往復して鑑賞し、人と館内のカフェでお茶をして、閉店前に戻ってみた。そのときすでに作品たちはなく、次の展覧会の展示の準備がはじまっていた。
だからわたしにとって浅香弘能の作品は「もしかして、夢だった?」という第一印象となった。
すてきな出逢いだ。
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