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90年代-2024年に描く未来(ディストピア?) -Tony Oursler[Transmission](-12/21)

 12月某日、六本木ピラミデビル。

 締め切ったギャラリー?

 準備中……ではないようだ。

 扉をあければ、こんな空間。




テーマは「不気味なもの(uncanny)」

トニー・アウスラー(1957 年、ニューヨーク生まれ)は、テクノロジーやメディアがいかに人々の心理に影響を及ぼしているかを探求するアーティスト。主に、デジタルアイデンティティ*1 や多くの人々が疑わない既存の信念体系、不安や恐怖を引き起こす「不気味なもの(uncanny)」*2 などをテーマに作品を作り続けています。

「映像イメージを箱型のテレビから解放した」アーティストのひとりであり、映像プロジェクションを取り入れたリサーチベースのプロジェクトを、世界中のギャラリーや美術館、パブリックスペースで発表してきました。また、長年ハル・フォスター、ノアム・M・エルコット、パスカル・ルソー、アン=カトリン・ギュンツェルといった理論家たちによって学術的にも広く論じられてきました。

「Transmission」では、初期における代表作から本展初公開となる最新作まで、アウスラーのアーティストキャリアを概観します。

同上

 第一印象として「どこかで?」という既視感、懐かしさ?がある気がしたのは、90年代から現代に至るまでの作品が隣り合っているからだろう。

 ギャラリーのウェブサイトの文言を引用しつつ、年代順に、主な展示作品を追ってみたい。

《Blue Mood》(1992 年)

 まず惹きつけられたのは本作。

本展の語り出しとなる《Blue Mood》(1992 年)では、1990 年代におけるアウスラー初期の実験世界へと誘います。

スーツケースに収められた布製の人形に、その頭部だけが映像プロジェクションで映し出された本作は、人を驚かせ魔法のような体験を与える映像プロジェクションと、物理的な彫刻との稀有な結合といえるでしょう。

同上

  制作された1992年という時代を振り返れば、映画『ブレードランナー』(1982年)、士郎正宗先生の『攻殻機動隊』原作(1989年)、映画版(1995年)、映画『マトリックス』(1999年)という流れが思い浮かぶ。

 30余年を経て鑑賞すれば、どこかレトロでもあり、現代の作品といわれても、この30年の文脈を捉えて制作されたのだろうと勝手に解釈してしまうところだ。

《My Saturnian Lover(s)》(2016-2017 年)

 奥まった暗室では、フィルムが上映されている。あたかも1960年代、70年代のSF映画のよう。

《My Saturnian Lover(s)》(2016-2017 年)は、モダニズムの衰退期である1940 年代後半を舞台にした没入型の映像インスタレーションです。

アウスラーが長く興味を寄せてきた大衆文化のアーカイブを反映した本作は、ジョージ・アダムスキー、ルース・ノーマン、ハワード・メンジャー、マーラ・バクスターといった実在のUFO 遭遇者たちのゆるやかな関係に基づいています。

ぼんやりと浮かぶ白い円盤の写真は、テクノロジーと神話の衝突を描き出しており、現実とサブカルチャーの幻想の境界を曖昧にし、アウスラーが大きな関心を寄せるマスメディアが認識に与える影響を映し出しています。

同上

 見てのとおりの「敢えて」感のなかで、2016-17年代という制作の年に、作家はここに何を盛り込みたかったのか。そのあたりに思いを馳せながら鑑賞する時間は、楽しかった。


《Bigger Than Life》(2024 年)

 展示室の片隅では、奇妙な囁き声が耳を捉えた。

2010 年に始まったマイクロプロジェクション・シリーズに連なる《Bigger Than Life》(2024 年)では、イメージや物語の断片を思わせる素材からなる多層的なレイヤーを取り入れ、不安から恍惚までデジタル時代における集合的無意識をあぶり出していきます。

プライバシーを侵害するスマートフォンカメラの視点で、ソーシャルメディアの不気味で覗き見趣味のような体験を捉えており、アウスラー作品に繰り返し現れる主題を反芻しています。

同上


顔認証シリーズ

また、本展では、近作となる「顔認識」シリーズもあわせて展示します。

アルゴリズムのパターンを利用して、デジタルメディアがアイデンティティ認識に与える影響を探索する本作において、アウスラーは、私たちの新しい人間の肖像が、画像だけでなく「統計や自動抽出したデータによって作られており、それが相互参照して私たちのすべての動きを予測するために使われている」と指摘します。

一方で、そうしたデータが一般公開されれば、創造的な目的に応用することができることを、本作は示しています。

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《Wicca》(2024 年)

 最も入口近くに展示された立体作品。その中央に、プロジェクターによってなにかの映像が投影されてる。

《Wicca》(2024 年)は、映画や演劇でお決まりのステレオタイプな登場人物(ストックキャラクター)を取り上げ、彼らの表情を動かすデジタルレンズを通じて、キャラクターに生命を吹き込むシリーズです。

本作では、ニューエイジ*3 思想の実践者に見立てた小さなフィギュアが、火山による廃墟を表す架空の風景に浮かび上がり、テクノロジーを拒絶する手段としての疑似科学やオカルトへの新たな関心をほのめかしています。

同上

 小さな小さな「画面」に、人々のシルエットが投影される。


《Eu/An》(2024 年)

 奥の壁には、きらびやかな立体作品。

アウスラーは、結晶構造の形をしたカラフルな壁面スクリーンの新作《Eu/An》(2024 年)においてこの主題をさらに掘り下げています。

デジタルスクリーンとポリクロームミラーを組み合わせた本作は、テクノロジーと自然が融合し、ニューエイジ思想が信じるパワーストーンとしての水晶と最先端技術のナノテクノロジーが交差することで、現在がふたたび「魔術化」されることを暗示しています。

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90年代から駆け足で振り返れば

アウスラーは、私たちが盲目的に受け入れている支配的な通念を揺るがすことで、不安を引き起こすテーマに取り組んできました。創造性、テクノロジー、サイエンスフィクション、ポップカルチャーの要素を組み合わせて、心理的に不安を与えると同時に詩的に心を揺さぶる没入型の環境を作り出し、滑稽さと深遠さの間を行き来させます。

その作品は、電気的でありながらもスピリチュアルであり、時にユーモアを交えてメディアを批判し、現実がどのように形作られていくのかを物語っています。本展では、これらの問題について観客に省察を促すとともに、テクノロジーに向けた新たな創造への道筋を指し示しています。

同上

 生成AIの台頭で、過去のSF作品で描かれた事柄が現実のものとなりつつある昨今。

 ともすれば当然のこととしてそれらを受け入れている自分に、「そういえばどういう経緯だったっけ」と立ち止まって顧みるきっかけを、本展は与えてくれたように思う。



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