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現実と虚構のループ(から出られない) -野沢 裕「Still Life」(-12/1)[AWT]07
アートウィーク東京(11/7-10)。
シャトルバスで巡ったギャラリーのなかで、特に印象的だった展覧会について、今日もまとめを。
野沢 裕「Still Life」@カヨコユウキ(-12/1)。
フレームのような窓に誘われて
静かな住宅街のなかに、「ここに違いない」と存在感を放つ、小さなギャラリー。
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リノベーションとおぼしき一軒家にあけられた、フレームのようなこの窓は、本当に素敵だった。
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「2枚セット」展示の理由
ギャラリー内。
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作品は二枚ずつ展示されていて……
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ん?
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よく目を凝らすと、左が写真、右はそれを描いた絵画だということに気が付く。
というふうに、写真と絵画を交互に観る、ということを、果てしなく繰り返していくと……
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だんだん、どちらがどちらか、その境界線が、わからなくなってくる。
そこが、作家の狙いでもあるようだ。
現実と虚構を行き来する
ギャラリーの解説より、引用。
野沢は絵画、写真、映像など、複数のメディアを横断的に使用しながら、日常の何気ない風景に少しだけ手を加えることで独特の風景をユーモラスに演出した作品を制作しています。些細な驚きが散りばめられた野沢の作品には、異なる時間や空間や次元が存在し、それらが交錯し重なり合うことで成立しています。野沢が仕掛ける遊びに満ちた展示空間に足を踏み入れたとき、私たちは現実と虚実との間を行ったり来たりすることを余儀なくされ、いつもと少しだけ違う世界に迷い込むことになるでしょう。
本展覧会を構成するペインティングと写真とが一組となった連作『CANVAS canvas』には、繰り返しキャンバスが登場し重要な役割を果たしています。キャンバスというのは言うまでもなく絵画の支持体のことですが、野沢の作品においては支持体であると同時にモチーフにもなっているのです。
『CANVAS canvas』で野沢はキャンバスをモチーフと捉え、ペインティングと写真とで2種類の「静物画」を制作しています。壁に掛けられた(あるいは床に置かれた)白いキャンバスが描かれたペインティングは、まさにその画面内に存在するキャンバスそれ自体であり、さらにそのペインティングは白いキャンバスと同じ場所に再び移され、写真による「静物画」のモチーフとなっています。描かれた/撮られた場所はキャンバスという静物を媒介として異なる時間や空間を行き来することになり、鑑賞者は作品とともに交錯する時間と空間をさまようこととなるのです。
本展覧会のタイトル「Still Life」は『CANVAS canvas』から想起されています。油絵から出発した野沢は「自分にとってペインティングはやっぱり特別なもの」だと言います。その支持体であるキャンバスを要素の中心に据えて彼独特のやり方で再構築された「静物画/Still Life」には、野沢の制作の原点が垣間見られるのかもしれません。
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現実の風景が、カメラで撮影したものと、絵画で描いたものに枝分かれする。観る者の目の前にはない、モチーフとなった風景が、目の前に浮かび上がってくる。
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現実の風景が現れたら
という世界観に慣れたうえで、さらに捻った作品を観てみよう。
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トラックが停まっていたので少しわかりづらいのだけど、画面右の窓の外の景色に、注目。
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そう、これらの写真と絵は、まさにモチーフとなった場所に展示されている。
観る者の想像の中にしかなかったオリジナルの場所が目の前に現れ、しかも、写真も絵も同時に存在する。その関係性を「時系列として見たら、何がはじまりなんだろう」的に考え出すと、頭がくらくらしてくる。
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これで観る者はもう、作家の創り出した不思議な世界から、抜けられなくなるのだ。
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