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空に続く階段とパブリックアート TODA BUILDING [APK PUBLIC]@京橋

 京橋、アーティゾン美術館……

 の、隣の建物、TODA BUILDING。

 長く工事中だった建物が、「アートなビル」に変貌していた話を。



広大な共用空間がアートの展示場に

 まず目に入るのが、この作品。

 アーティゾン美術館からガラス越しに眺めると、こんな感じだ。

 屋外アートが設置されている建物は珍しくはない。でもよく見れば、恒久的に展示されるパブリックアートとは、少し趣が異なるように思える。

 ウェブサイトを見てみれば、

「APK PUBLIC」は、新進アーティストやキュレーターによる都市の風景を担う大規模な作品発表の場として、TODA BUILDINGの共用空間を活用し、更新性のあるパブリックアートを展開するプログラムです。

来街者やオフィスワーカーが日常的に作品のある空間を体感し、クリエイティビティが刺激されることで、視野の拡張をもたらし日々の生き方や働き方を豊かにしていくことを目指します。

第1回は、国内外で活躍するキュレーターの飯田志保子氏を迎え、不確かな時代の閉塞感を未来志向のポジティブな展望に転換できるよう「螺旋の可能性―無限のチャンスへ」をコンセプトに作品を展開します。

螺旋の可能性―無限のチャンスへ
TODA BUILDINGの新たなシンボルとして、ビルに集う人々のモビリティ、ムーブメント、フレキシビリティを象徴すると同時に、未来を見通す上昇やサステナビリティへの志向も喚起するような、螺旋構造、回転、循環、連鎖、振り子運動、持続性などの特徴を持つ作品を展示します。

同上

持田敦子 Mochida Atsuko

《Steps》 2024
スチール、 スチールエキスパンドメタル

 作品は、屋外だけにとどまらず、

 建物内の吹き抜けにも展示されていた。

《Steps》 2024
スチールエキスパンドメタル、 ワイヤー

  昇り口ともとれる、フロアに接した階段もある。

 空高く、続いている階段。

エントランスロビーの天井から吊り下げられた螺旋階段《Steps》は、持田が3次元空間に描いたドローイングの軌跡を具現化したもの。

階段は人が昇降する実用性から解放され、空間に介入するツールとしてねじれたり重なり合ったりしながら、曲線の繊細な美しさと彫刻的なダイナミックさをつくり出します。

下から、横から、上からと、見る角度によって弧を描くラインが異なり、季節や時間の移ろいに応じてビル空間に変化をもたらします。屋外広場では、ロビーの作品に呼応して地面から上空に伸びる《Steps》をご覧いただけます。

持田敦子
1989年東京都生まれ。長野県在住。2018年バウハウス大学ワイマール大学院、東京藝術大学大学院修了。2018年から2019年にかけて、平成30年度公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修員としてドイツ、シンガポールにて研修。プライベートとパブリックの境界にゆらぎを与えるように、既存の空間や建物に、壁面や階段などの仮設性と異物感の強い要素を挿入し空間の意味や質を変容させることを得意とする。近年の活動に長野県飯田市にて家屋を解体するプロセスを作品化するプロジェクト「解体 」(2021-2023)など。

同上

 誘われるように、吹き抜け部分を取り巻くような2階へと続くエレベーターに乗れば、

 作品展示スペース、「APK PUBLIC」が広がっていた。


野田幸江 Noda Sachie

 広々とした空間で、まず本作に出逢う。

《garden -b- 〈地層になる〉》 2022–2024
京橋で採集した植物、自然物、 ゴミ等、地下水、地下地層 (シルト・礫)、花染めの布、 イチョウ染めのチュール、 白セメント、ガラス瓶、 アクリルケース

 進んでいくと、次には展示ケースに陳列された、さまざまなものたち。

《garden -a- 〈この風景の要素〉》 2022–2024
京橋周辺で採集した植物、 自然物、拾い物を含む

TODA BUILDING竣工までの2年間、京橋エリアで四季計8回行ったフィールドワークを基に制作した一連のシリーズ。

建設現場の湧水や道端に群生する季節ごとの小さな植物を採取し、乾燥させたり煮詰めたりしながら特性を引き出し、フィールドワークで感じた街のストーリーを反芻しながらかたちづくられました。

芽生えて朽ちていく有機物の循環、その土地に人が暮らすことで生まれる変化。普段は目に見えない地形や地盤の個性を映し出し、都市の生態系を集積した作品となっています。

野田幸江
1978年生まれ。画家として絵画制作の傍ら、家業である花屋「ハナノエン」で植物に携わるようになる。日常にある植物に触れ、風景についての創作を行っている。主に、自然の要素を配置する空間的な表現や、営みから生まれる植物作品、庭づくりなどを含めて、循環するモノの感触を探っている。近年の活動では、ライフワークに基づく植物の造形や絵画などの発表を各地で行っており、また、庭や場にアプローチする創作やパフォーマンスにも取り組む。ARTISTS' FAIR KYOTO 2021Akatsuki ART AWARD最優秀賞。近年の個展に「きれいな場所」(ミヅマアートギャラリー、2024)。

 京橋という土地からの、いわば出土品のようなものたち。

《flower》 2022–2024
コンクリート廃材、 マリーゴールド、寒天


毛利悠子 Mohri Yuko

 まさに現在、アーティゾン美術館で特別展が開催されている作家。アーティゾン所蔵の名作たちとのセッションともいえるインスタレーションの数々は、少し謎めいていて、それを推理する愉しみも与えてくれる。

 このスペースの毛利作品は、立体作品だ。

《分割された 地震動軌跡模型 I-4》 2024
スチールに彩色、鉄

本作において毛利は、地震学の先駆者である関谷清景(1854–1896)が、1887年1月15日に起きた地震の東京での記録をもとに、地面の動きを針金で立体的に表した「地震動軌跡模型」(国立科学博物館蔵)から着想を得ました。

毛利が実践してきたキネティック・アートから離れた、静的な彫刻作品のように見える本作ですが、地球の運動エネルギーを具現化した地震学者の模型の引用であるという点で、これまでの毛利の活動の延長に生まれた新しい境地とも言えるでしょう。

最先端の免震構造を備えたビルの内部で、人間と自然との絶え間ないネゴシエーション(交渉)が表現されています。

毛利悠子
構築へのアプローチではなく、環境などの諸条件によって変化してゆく「出来事」に焦点を当てるインスタレーションや彫刻を制作。「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子—ピュシスについて」(アーティゾン美術館、2024–2025)、第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館「Compose」(2024)、カムデン・アーツ・センター(ロンドン、2018)、十和田市現代美術館(青森、2018-2019)での個展のほか、「第14回光州ビエンナーレ」(2023)、「第23回シドニー・ビエンナーレ」(2022)、「第34回サンパウロ・ビエンナーレ」(2021)など国内外の展覧会に参加。2017年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

同上
《分割された 地震動軌跡模型 I-3》 2024
スチールに彩色、鉄

 解説を読むことで、この作品たちが、作風の線上にあることを知った。

《分割された 地震動軌跡模型 I-2》 2024
スチールに彩色、鉄
《分割された 地震動軌跡模型 I-1》 2024
スチールに彩色、鉄


小野澤 峻 Onozawa Shun

《演ずる造形》 2024
鉄、モーター、ワイヤー、 ステンレス球

6つの球体が一定の速度で、それぞれ微妙なズレを保ちながら振り子のように揺れ動きます。その動きには、慣性の力や重力、そして周囲の環境が影響し、予期せぬ衝突が起こる可能性も秘めています。

プロのジャグリングパフォーマーとしての経歴を持つ小野澤は、重力や遠心力を身体感覚で操る技術を、コンピューターが信号を解読して動作する装置に置き換え、自然の法則、コンピューター、そして人間が共演するライブパフォーマンスを実現しようとしています。

約8分|11:00から1時間毎に上演|最終回 19:00 
※休演中につきご覧いただけない場合がございます。

小野澤 峻
1996年群馬県生まれ。ジャグリングパフォーマーの身体感覚を起点とした、上演型の彫刻作品を制作。東京藝術大学大学院の先端芸術表現専攻を修了後、「Media Ambition Tokyo」(2020、渋谷スクランブルスクエア/2021、森アーツセンターギャラリー)、国際芸術祭「あいち2022」などに出品。2021年には「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」の一人に選出。

同上

 残念ながら静止した作品としてしか鑑賞できなかったので、次に界隈を散策するときに。

再び、持田敦子作品

 2階から鑑賞する《Steps》。自分が宙にいて、すぐさま飛び移りたくなるような衝動に駆られる。

 今一度、1階に戻る。この、空に続いていく感じのほうが、個人的にはいなと思えた。

 オフィスビルの1階を、カメラを持ちながら、作品を見上げて徘徊している者を、警備員さんたちは許容している。ありがたい。

 陽が落ちれば、周辺はこんなふうにライトアップ。

 この建物の3階には、人気のギャラリーが隣り合うギャラリーコンプレックス、1階には、カフェ併設のギャラリーがある。

 次は、その話題を。


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