魅惑の「ミンスパイ」を求めて
ミンスパイに沼った2024年冬の記録。
🌟ミンスパイに出会う
イギリスの伝統的なクリスマスのお菓子「ミンスパイ」。
2021年に、都内の某紅茶カフェでたまたま出会った。ヴィクトリアケーキが目当てだったが、ひとくちでイケそうなミンスパイも気になってオーダーした。
サクサク生地にドライフルーツがたっぷり詰まっている。好きな味だ。こんなお菓子がイギリスにあることを初めて知った。
同じくクリスマスのお菓子で、ドライフルーツ&生地の組み合わせだと、日本ではシュトーレン/シュトレン(ドイツ)がメジャーだ。
シュトーレンも好きだが、ミンスパイに出会ってからはミンスパイの方が好みだと気づいてしまった。
ミンスパイ(たくさんのドライフルーツが生地に包まれている) 、シュトーレン(たくさんのドライフルーツが生地に練り込まれている)、という違いにおいて、ミンスパイの方が食感が好みなのだ。ドライフルーツをざくざくと噛み締め、洋酒の風味を感じることが。
あと、シュトーレンにはマジパン入りタイプがある。私はマジパンが苦手だ。
シュトーレンはクリスマスまでのアドベント期間、薄く切って少しずつ食べるのに対し、ミンスパイはクリスマスから年明けにかけて毎日1個ずつ、合計12個(12日間)食べると幸運が訪れるという言い伝えがある。
どちらも、日を置いてドライフルーツと生地が馴染み、味わいが変化していくのを楽しむタイプのお菓子である。
ミンスパイの中身を「ミンスミート」と言う。ドライフルーツ、りんご、ナッツなどを砂糖やスパイスと一緒にラム酒やブランデーに漬けて煮込んだフィリングのことだ。
イギリスのお菓子を扱う専門店で、ミンスパイと共に「ミンスミート」の瓶詰が売られていることがある。
「ミート?なぜ肉?」と思ったのだが、その昔は本当にひき肉が入っていたらしい。ミンス=ミンチ(ひき肉)。それはそれで気になる味ではあるが、現在では省かれてしまったということは、肉が入らないバージョンの方が支持されたのかもしれない。
「パイ」という名称だが、日本人の想像するパイではない。「ショート・クラスト・ペストリー」というサクサクした生地で、タルトに近い。
🌟イギリス映画のミンスパイ
🔸ハリー・ポッター
「ハリー・ポッター」の映画にも、ウィーズリー家のミンスパイがたびたび登場する。
「謎のプリンス」で、ウィーズリー家で深刻な話をしているところ、ジニーが呑気にミンスパイを持ってやって来て、ハリーに「あーん」して食べさせるシーン。
それを見て、わざとハリーとジニーの間に割って入り、ミンスパイを頬張るおじゃま虫ロン。
緊張感のあるストーリーの中で、平和なひとコマだ。
「ハリー・ポッター」シリーズが大好きで何度も見返しているが、あれはミンスパイだったのか…と最近になって知った。
おととし、タリーズとハリー・ポッターのコラボ「ミンスパイラテ」を飲んだが(美味しかった)、当時は大して気に留めなかった。
ハリー・ポッターが好きな方はこちらもどうぞ。
🔸ブリジット・ジョーンズの日記
「ブリジット・ジョーンズの日記」にもミンスパイが出て来ることを最近になって知った。ヒロインが、「やけ食いで42個食べた」という描写が出て来る。
大御所の翻訳家が「ミートパイ」と誤訳したそうだ。私は当時映画を観ているが、ミンスパイに興味がなく、誤訳に気づくはずもなかった。
翻訳家が間違えるぐらいだ、映画公開時の2001年は今以上に日本にミンスパイは浸透していなかった。
しかし、いくらブリジットでもミートパイ42個は異常じゃないか。翻訳家は異常に気づかなかったのか。かと言って、ミンスパイ42個もなかなかの量だが。映画を見返したくなった。
以前、「グレーテルのかまど」でも「ブリジット・ジョーンズの日記」に登場したお菓子として取り上げられたことがあったようだ。
~ブリジット・ジョーンズのミンスパイ~より ミンスパイ
🌟ペニンシュラのミンスパイ
最初に感動したのは、2023年に丸の内のクリスマスマーケットに出店していた「ザ・ペニンシュラ東京」のミンスパイだ。
1つ500円。「ちっちゃい(2口でイケるサイズ)のに高いなぁ」と思ったものの、食べて感動。ミンスミートがパンパンに詰まっていて、洋酒の香りが高い。
初めて食べた某紅茶カフェのミンスパイは、申し訳ないけれどこれほど感動はしなかった。さすがはペニンシュラである。
2024年も張り切って買いに行ったが、100円値上がりしていた。1つ600円。パンも菓子も何もかも全般的に値上がりしているので致し方ない。
お店の方に「昨年とても美味しかったので、また買いに来ました」と張り切って伝えたら、「今年はフルーツ増量しました!」と話してくれたので、増量分の値上げもあるのだろう。
相変わらずめちゃくちゃ美味しかった。
他のミンスパイを知ったから言えるが、素朴な家庭のお菓子という枠から外れ、高級洋菓子のようなクオリティだ。お値段的にも高級なんだけど。
ミンスミートに使用しているバターの香りが良く、生地の口当たりが天才的。さすがペニンシュラと言いたくなる、納得の味。口コミでも評判が良い。
🌟WALKER'Sのミンスパイ
ミンスパイは日本でなかなか市販しているのを見かけない。
カルディや明治屋、成城石井などの輸入食材ショップで「ミニミンスミートタルト」という名称で販売されているお菓子が最も入手しやすいかもしれない。
メーカーは、ショートブレッドが人気の「WALKER'S」。誤解を避けるためだろう、パイではなくタルトと翻訳されているところが、日本人に馴染みが薄いことを物語っている。
林檎がピューレ状のため、ざくざく食感がいまいち物足りないようにも思うが、味は美味しい。市販のお菓子でこのレベルは素晴らしいと思う。
トースターでリベイクするのが好み。バターの香りが立つから。ミンスミートがグツグツに温まるので火傷注意。
生地はWALKER'Sのショートブレッドを彷彿とさせるので、ショートブレッドが好きな人は気に入るはず。甘め。
🌟ミンスパイ教室で作る
入手困難であれば、自分で作ってしまえホトトギス、と思い立つ。
しかしタルト生地を作ったこともなければ作る自信もないし根性もないので、プロに習うことにした。
お菓子教室なんて小学生ぶりだ。検索したら、さほど遠くない場所で素敵な教室を開いている先生が見つかってラッキーだった。
先生はよく笑う方で、ご自身のイギリス留学の話を交えて、テキパキとミンスパイ作りが行われた。マンツーマンレッスンなので気楽だった。
日当たりの良い素敵なキッチン。引き出しを開けるとお菓子作りの道具がサイズ違いでずらりと並んでいて、魔法使いの道具を眺めるようにワクワクした。(ハリー・ポッターに引きずられている私。)
ミンスミートは漬け込み期間が長い方が美味しいので、先生が1週間前に仕込んでおいてくれた。当日はそれをバターで炒めて仕上げ。
本場ではケンネ脂(ラードみたいな脂)を使っていたらしい。でもラードより絶対バターの方が美味しいよね。
不器用なので生地を伸ばす作業が苦手。型を抜いた後に生地がだれると作業しづらいので、こまめに冷凍庫に入れるとやりやすいのだと知る。
不器用なので(2度目)、生地を型にはめ込むのでさえ苦労した。微妙にずれる。
全卵で艶出しした後。これだけでも美味しそうな色合いだ。
欲張ってパンパンに詰めた手前の子が爆発気味で愛おしい。
フランスやイギリスで修業し、本を何冊も出されている先生のレシピで、先生がほぼ作ってくれたようなものなので、当然美味しいに決まっている。
生地はサクサク、甘さ控えめだがバターしっとり風味良し。ミンスミートが甘いのでバランスが良い。
ミンスミートの味付け、ジューシーさ、ナッツのカリカリとした歯ごたえが絶妙に好みだ。バターで炒めることで、あのようにふっくらするのだなと実感。
ナッツは、アクセントになるし甘ったるさを中和するのであった方が良いと思う。入っていないこともある。(「WALKER'S」には入っていない。)
ナッツ類は、しっとりさせたければフルーツと一緒にバターで炒め、カリカリが良ければ炒めた後に混ぜる(カリカリ派)。
日が経つにつれ、生地とミンスミートが馴染んでいく。噛めば噛むほど味わいがある。
「年明けにかけて毎日1個ずつ食べると幸運が訪れる」という言い伝え関係なく、単純に美味しくてクリスマス前から毎日手が止まらない。ブリジットみたいに一気に何個も食べられないけど。
生地は手間がかかるので、復習しないかもしれない。でもミンスミートはたっぷり作って、パンに乗せて食べたいという野望を抱いた。イギリス人は、ミンスミートをパンに乗せて食べると先生に聞いたので。
パウンドケーキに混ぜ込んだりもするそう。それなら私にもハードルが低いので、作ってみようかなという気になった。市販の冷凍パン生地に混ぜ込み、焼きたてを食べるのもいいかも(ヨダレ)。
冷凍パイ生地を使うレシピをたまに見かける。それはそれでありだと思うが、ミンスミートが引き立つのは、パイではなくショート・クラスト・ペストリーだと思う。
とりあえず、教室で余ったミンスミートをスコーンに乗せてみた。めちゃ美味しかった。イギリス同士だから当然か。
アフタヌーンティーで、ミンスパイにクロテッドクリームを添えることもあると聞いた。超ハイカロリーだが、美味しいのは想像に容易い。
教室で、同時に作ったマルドワイン(英語)。ホットワイン(和製英語)のこと。クリスマスマーケットでおなじみ、グリューワイン(ドイツ語)の方が聞きなじみがあるが、中身は一緒だ。
サングリアは何語だっけ?と先生に聞いたら、スペイン語だった。
スパイスはシナモンとクローヴを使用したが、好きなものを使って良いとのことなので、大好きなカルダモンを入れて作ってみたい。
イギリスでは、子供達がサンタクロースのためにミンスパイとマルドワインを用意する風習があるそうだ。アメリカではクッキーと牛乳だと聞いたことがある。
日本に決まったサンタメニューがないのは、他国に比べてサンタクロース文化に親近感やリスペクトがないからだろうか。饅頭と緑茶、っていうわけにはいかないしな。
🌟イギリス菓子店のミンスパイ
🔸Lazy Daisy Bakery
湯島のイギリス菓子店「Lazy Daisy Bakery」のミンスパイ。見た目が素朴なのが、逆に可愛く感じる。
そう言えば、お菓子教室の先生が「ミンスパイは見た目が地味だから日本人ウケしづらい」と話していた。確かに映え重視の人には刺さらないかも。
星型でささやかにクリスマスらしく着飾っているのも可愛いし、潔くシンプルなのも好感だ。私が求めるのは味よ。
ミンスミートはしっかり甘めで、生地はサクサク、上がクランブルになっていて食感が良い。ちっちゃいのに、1つで満足感が高いお菓子って、コスパも良いなぁとも思う。
(くどいようだが42個食べたブリジットすげえな)
キャロットケーキ、ヴィクトリアケーキ、チョコレートケーキも絶品だった。甘さと味わいが絶妙で、一口食べる度に「おいすぃー!」とつぶやかずにはいられない、幸福感。心と身体がとても喜ぶ味。スコーンがまたサクふわでたまらなかった。
私はキャロットケーキ、ヴィクトリアケーキ、スコーンも好物だ。イギリス菓子が好きなのかも。本場へ行ったことがないだけに、これが本場の味なのか…と遠い異国に憧れが募る。
「ミンスパイ」で検索して見つけたお店だが、「マツコの知らない世界(スコーンの世界)」で取り上げられたこともある人気店だった。
基本的に金・土のみ不定期オープン(SNSで告知)、店主が1人で切り盛りしているため並ぶ。
でも、並んででも食べたいお菓子だ。容器(タッパーなど)を持参するリピーターも見受けられ、店主のお菓子を愛する心が伝わって来る素敵なお店だった。
若い人だけでなく、杖を付いたご年配の方々も行列に混じっている。その昔イギリス関連のお仕事をしていたとか旅行の思い出があり、本場の味が恋しい方々なのかしら?と妄想。
🔸Rodda's(ロダス)
阪急うめだ、銀座三越、伊勢丹新宿に店舗を持つスコーン・クロテッドクリームのメーカー。
スコーンは買ったことはあるが、クリスマス時期限定でミンスパイを販売していることは、つい最近知った。
私の知るミンスパイより一回り大きい。そして、生地はパイだった。英国の老舗メーカーなのに、パイは邪道ではないのか、と余計なことを思う。
パイは薄くてパリパリしている。ミンスミートには、やっぱりサクサクのショート・クラスト・ペストリーがジャストフィットすると思う。
他のミンスミートに比べ、酸味が効いていたのが特徴的。
食べた後で気づいたが、説明書に「オーブントースターで軽くリベイクし、パイの中のミンスミートの香りを解放させながら、冷たいクロテッドクリームをたっぷりつける食べ方をおすすめしています」とあった。
クロテッドクリームも買ったのに、せっかちなのでつけずに食べてしまった。酸味は、クロテッドクリームとの調和を考えてのことかもしれない。
中にもクロテッドクリームが入っているとのことだが、正直よくわからなかった。別添えの方が美味しそう。
シュトーレンほど味のバリエーションはないが、どのミンスパイもそれぞれ美味しかった。
気になっているが、買いに行けなかった店もあった。クリスマス限定のお菓子だから購入期間が限られる。
来年はまた新しいミンスパイと出会えるかな。
🌟【おまけ】今年食べたシュトーレン
🔸アンデルセン
ミンスパイに夢中で、今年はシュトーレンをほぼ食べていない。
パン屋「アンデルセン」で一目ぼれした、一口サイズの星型シュトーレンは食べた。口当たりが軽くて好みだった。可愛いし、手軽さが良い。
🔸をかし ひつじや
福岡の和菓子・駄菓子屋「をかし ひつじや」。2024年冬、上野駅エキュートにもオープンした。
たまたま店を覗いたら、金平糖や羊羹に混じり、ミンスパイサイズのシュトーレンを発見したので、つい手が出た。クリスマス限定だそうだ。
生地が軽めで、パウンドケーキ寄りの食べやすさ。レーズン、アーモンド、フィグ、生餡など色々と混ぜ込んであり、サイズは小さいが色んな味が口に広がる。
しかしカロリーはさすがシュトーレン、このサイズで400kcal越えとは。表示を見て震えた。
ミンスパイもそこそこカロリーが高そうだが、怖いから調べないでおく。
今年は買っていないが、ガトーフェスタハラダの、ラスクと同じサイズのシュトーレンも好きだ。手頃な価格で美味しい。
店舗によっては、バラ売りしているのも便利。
このように近頃はミニサイズ、スライスのシュトーレンも増えたように思う。一人暮らし、色んな種類を食べたいという自分には少量売りがありがたい。
でも来年もきっと、ミンスパイを優先しちゃうだろうなぁ。