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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2023年2月の記事一覧

詩:『ケルベロス』(再掲)

詩:『ケルベロス』(再掲)

犬を虐めている子供を
平手打ちして逆に泣かされる
いつか復讐してやるぞと
じっと公園を睨め回す夕刻
温かい
温かい
手首から血を抜いたあと
涎を垂らしながら
流しで食パンを1斤食べた
親から見捨てられたわたしに
俺は見捨てないなんて嘘を吐くな

詩:『ケルベロスⅡ』

詩:『ケルベロスⅡ』

辺り一面を分厚く白く修正し
生命を手厚く葬らんと雪が

降り続ける真冬の東京に
白い野犬が紛れ込んだ

サクサクと闇に溶け往く様に
積もった雪の重みを踏みしめ

夜の都市に擬態する野犬
その生物多様性に死の咆哮を

精神神経科の夜勤病棟然とした
更生施設に野犬の叙事詩は漂着し

フィレンツェの憑依霊能者然とした
構成作家が野犬の抒情詩を漂白する

【遍く正当に評価せず/
           

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詩:『アサガオ』

詩:『アサガオ』

『アサガオ』

眼下の、細雨に烟る瀬戸内海。
窓に走る雨粒、車線変更のウィンカー
カッチ、カッチ、カッチ、カッチ

わたしは転校生になった。父と母は去った。
これからは叔母と暮らす。今日は夏至の雨
アサガオの、芽吹きを今年も記録した。

少々の雨なら、敢えて濡れてゆくような
そんな主義の女性に、わたしは成りたかった。

植木鉢を抱き、助手席に収まったわたし
このアサガオの観察日記は完成させよう

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詩:『無限の液体』

詩:『無限の液体』

『無限の液体』

コップ一杯の表面張力
潤滑油はいつも臨界で
目が合えば一瞬で
太股を溢れ落ちる
それはとめどなく
とめどなく……
やがて手が滑って
最後は粉々に砕け散る
セロハンで継ぎ接ぎ
修復してももう遅い
この無限ループ
再起不能だと
何遍思った?
もうウンザリだ
いつも私の方が
間違っているんだ
目が合うんだ
逃れられない
コップは常に満杯だ
また溢れ落ちる
地獄におちろ
もう疲れた
私は

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