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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2021年11月の記事一覧

詩:『遺稿』

詩:『遺稿』

『遺稿』

理解してほしいんだ
「死ね、殺せ、滅びろ」
そんな直接的な言葉より
「そういう言葉が、
あんたの頭の中には、
いつも渦巻いているんだ」
そんな指摘をされるほうが
よっぽど人を殺すことを

詩:『個性』

詩:『個性』

『個性』

冷え込んだ早朝
霜の残るアスファルト
防寒コートを脱ぎ置き
周回コースに挑む陸上部

ポニーテールを結び直し
ストンストンと数回跳ね
腕と脚をぶるると震わせ
力を抜いて目を閉じ、開き
スタートラインに静止して
深く空気を吸いゆっくり吐く

イメトレで何度も想定した景色
始まったら半ば終わったも同然だ
研ぎ澄まされてゆく心【純粋で個人的な】
ピストル音、空間を喰う腿を、前へ、前へ

詩:『宝石』

詩:『宝石』

『宝石』

老後に美しい人こそが
本当に美しいという表現に
値する人生を生きてきた人だ
歳をとる程に刻まれた人生の質は
その人の佇まいに表れてくる
それは社会的な成功者や
路上生活者にも見出せる類の
人間の本質的な美しさだ

ある浮浪者は笑った
その男には歯が無かった
全部売っぱらってやったんだ
愛した女を養うために
子供は出来なかった
いつか女は去っていった
俺はそれで満足なんだ
俺は俺を誇りに

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