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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2021年8月の記事一覧

詩:『湾』

詩:『湾』

『湾』

朝 断崖の先端から背後の支湾を望むと
意外と手狭な展望に僅かな失望感がある

真下の絶壁に波が打ち寄せる光景は
複雑な気泡の折り重なる無秩序さで

その中に一定のアルゴリズムが
あるのではないかとじっと観察する

重力に吸い込まれて行くように
波に向かい堕ちていく感覚

我に返ってまだこの世界に
興味がある自分に苦笑する

よく見てみようと一歩を踏み出すと
全ての感覚がゲシュタルト崩壊を

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詩:『晩夏』

詩:『晩夏』

『晩夏』

ヒヨに啄まれるヒグラシを見た
ジ・ジ・ジと断末魔のような

三年土の中をただ浪費して
やっと出てきた末路がこれか

今年もまた憧れを溜め込んで
焦がれた末 呆気なく過ぎる夏

失ったものだけ輪郭はっきりして
夕暮れが憂鬱に消えゆき帳くる

お前たちはただ欺瞞の中にいて
わたしたちに怒っているんだろう

満ち足りた人間どもが羨ましくて
短く激しく生きるのだろう

わたしたちが不安に慄いて

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詩:『自立』

詩:『自立』

『自立』

自立した立派な大人が今夜一人亡くなった
アスファルトに砕け散ったのは青い文字盤
救急車のサイレンくらい許容できるだろう
しっかりが前提の立場の人が飛んだのだぞ
コインランドリーの光だけが看取ったのだ
ひと一人の死を夜の街は冷静に受け止める
その他大勢が1に対して78億の世界の現実
その悲劇を誰かもしくは僕が認めたとして
何らかの義務が果たして発生するだろうか
僕は心穏やかな夜を詩作に捧

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詩:『何処』

詩:『何処』

『何処』

手放したものは帰ってこない
取り戻せたと思っても
それは既に別のものだ

小雨の降り始めた新宿駅改札
見送った君の丸っこい背中

「みんな同じだ」
「寂しいのが好きだから」

大好きなアーティストが
曲で真実を述べている

檸檬のハンドクリーム
その匂いが少し薄れてきて

優しい人は嫌だ
温かいのも嫌だ
その後が怖いから

君に心の臓を持って行かれて
それでも僕は死にたくない

みんな

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詩:『メタモルファ』

詩:『メタモルファ』

『メタモルファ』

それは一瞬という表現より
もっと短い体感で変わる

ぼくたちの世界はあまりにも
鮮烈に趣を変え続ける

美しさという表現はいらない
評価しきれない不可解な世界にいる

その世界を全肯定して
染まり世界に擬態する

涙と鼻水がドバドバ溢れてくる
渇いて死ぬかもってくらい

朝家を出て空を見た
面白い小説を読んだ

きみのゲームplayを隣で見ていた
電車内で誰かさんとアイコンタク

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