ご褒美【旅のみやげ】
そこに行けば
海に会えるといわれたから
のんびり走る電車に乗った
海はなかった
“かってはここも”
道案内の人は言った
かってではなく今みたい
私は悲しく
かって海だった場所を眺めた
諦めて
諦めきれずに乗った
“東海道線”
一人の老婆が乗ってきた
“座りますか?”
尋ねると返事もせずに
こちらへきた
何も言わずに
譲った席
当たり前のように座った
お礼を言われたかったわけではない
だけど
なんだか
寂しくて
入口の扉を
寂しく眺めていたら
海だ!
海が見えた!
途切れ途切れにみえる海
心が踊った
段々と広がる大海原
やっと
やっと海が見えた!
あの時
老婆に席を譲らなければ
私はこの海を見れなかった
この海をみるのは
30年振りだった
あの頃と変わらない海がそこにいた
懐かしい思い出と共に
私はご褒美をもらった
無表情の老婆の顔なんて
どうでも良くなった
海は広いな
大きいな
波が優しく私の心をなでてくれた