併存
(続)悶絶躄地
ー 茜さん
進級したとて状況は何も変わらない。
カショオもチューブもやる度胸ないから中途半端に非嘔吐と拒食を繰り返して。まともに寝られず、根拠のない感情と黒田さんに振り回される毎日のせいで希死念慮に拍車がかかるので体を切る。
救われたのは、私を黒田さんから守ってくれる人格、
“茜さん” が生まれた事。
自傷、過食する
↓
黒田さんにけちょんけちょんに言われる
↓
私へこむ
↓
自傷する
の流れが出来上がっちゃっていて、
これから守るためなのか、
『切っても大丈夫。食べちゃっても大丈夫。私ちゃんはえらいね、頑張ってるね。わたしがいるから大丈夫だよ。ずっと一緒にいるから大丈夫。私が一番そばにいるから大丈夫。わたしが私を守ってあげる。だから安心して生きて。』
茜さんが私の中に住むようになった。
私と黒田さんと茜さん、3人で生活するようになる。16歳。
たまに黒田さんと茜さんが直接喧嘩する事もある。
『傷付けて何が変わるんだよ、そんなに死にたいならさっさと消えろ』
『なんでいつもそういう事しか言えないの?これ以上私ちゃんを傷付けないでよ!』
「ごめんね、全部私のせい。私が悪いだけだから。」
私が謝るとだいたい黒田さんは無言で引っ込む。
茜さんは何も言わずに隣にいて暫くすると口を開く。
『私ちゃんは何も悪くないからね。自分を責めないで。何があってもわたしが絶対に守るから。大丈夫だからね。私ちゃんの好きに生きていいんだよ。』
茜さんは私が欲しかった言葉を言ってくれた。
そりゃあそう。
私の中で出来上がった人格だもん。
私は味方が欲しかった。大丈夫だよって言って欲しかった。頑張ったねって努力を認めて欲しかった。
自分で自分を褒めてあげられたら一番良いのだけど、サトミとして生きてきた代償として自己肯定感が全く無かったから。
サトミも嫌いだけどサトミになろうとしていた自分自身も大嫌いになっていた。
そういう意味では、黒田さんがいる事も腑に落ちる。
私の事が嫌いで、死ねない自分も嫌いで、自傷を辞められない事にも嫌気がさして、どうしようもない私の気持ちを代弁してくれていたのが黒田さん。
うるせえ黙れってよく言ってたけどね。
黒田さんは“死にたい”を、
茜さんは“私として生きたい”を、
肯定してくれる存在だった。
ー 責任
死にたい事も死のうとしている事も自傷の事も、それのせいで苦しい事も相談できずにいた私は限界を迎えた。
誰かに話して楽になりたい。
ふとそう思って、数少ない信頼していた先生にポロッと話してしまった。
誰にも言わないで欲しい、他の先生にも生徒にも親にも。ここだけの話にして欲しい。約束してもらえないなら話さない。
そう伝えて。
「わかった。絶対に誰にも言わないから、聞かせて。」
その言葉を鵜呑みにして信じてしまった。
この状況を解決したかった訳じゃない。
ただ誰かに共有して楽になりたかった。
このままだと本当に死んでしまいそうだったから。
ただそれだけだった。
すぐにたくさんの先生の耳に入ったらしい。
次の日から色んな先生から声をかけられた。
相談室に連れて行かれた。
「あなたの気持ちを聞かせて。」
なんで初対面の全く知らない人に私の事を話さないといけないの?
もう、人間に対する信頼なんて微塵も無かった。
ただでさえ人を信用できなくて、この人なら信用しても良いかも、と思って勇気を出して信じた人に裏切られた。人間なんて信じちゃいけない。期待なんてしちゃいけない。絶望が待っているだけだから。
帰ろうと校門を出たところで保健室の先生に捕まった。
「ちょっと話があるんだけど。」
「嫌だ、帰る。」
腕を掴まれて振り解こうとしたけど他の先生も来て連行された。
終わった。めちゃくちゃだ、私の人生。
「◯◯先生から話聞いたよ。」
「だから何?」
「こういう話、家でもちゃんと話せてる?」
「してるわけないじゃん。だから昨日話したの。誰にも言わない約束で。家族に絶対に話したくないから約束して話したの。なのにすぐ言うじゃん。もう誰も信じないよ。だからほっといて、私に関わらないで。」
「ちゃんとご両親にも伝えたいから連絡させて。連絡する責任があるの学校には。」
「ふざけんなよ、それが嫌だっつってんじゃん。彼らの耳に入ったら何されるかわかんないの。何言われるかわかんないの。それが嫌だから信じてもいいかもって思えた先生を頼ろうと思った。でももう頼らないから。ほっとけよ。」
「何かあってからじゃ遅いの。」
「何か、ってなに?私が死ぬって事?死んだ後にそれを知ってたけど伝えていなかった学校の責任が問われるって事?じゃあ伝えれば死んでもいいって事だよね?そうすればあんたらの責任はないもんね。私が死んだっててめえらには関係ねえもんな!!!」
自分でもびっくりするくらい言葉が出てきた。
涙も出てきた。
こいつらの目の前で死んでやろうかな、教室に遺書置いて学校で死んでやろうかな、本気で考えた。
今私がこの文章を書いているという事は、その時に死なない選択をしたのだけど、死ななかったのは、
「今死んだら、死んだ後の私の処理って両親がするんだよな」
という考えがいつも頭を過ぎっていたから。
きっとこの人たちは、私が死んだら“娘を亡くした可哀想な親”になる。私は死んでも親の演出材料になる。この人たちのために死ぬのは嫌だ、そう思ったから死ねなかった。
どうせ死ぬなら嫌いな人に殺されて、そいつに犯罪者というレッテルを貼り付けて一生十字架を背負わせたい。
生きてたいから死なないんじゃなく、死ねないから生きてた。
生き地獄でしかない世界で。
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