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日日是好日

人は時間の流れの中で目を開き、自分の成長を折々に発見していくのだ。

まえがき
『日日是好日(新潮社)』|森下典子 著

新しいことを始めたばかりの頃、とてつもない不安に襲われ、この不安と恐れの渦にいつまでも飲まれたままになってしまうのではないかと、緊張状態が続き夜も眠れない。社会の流れより随分とスローペースで不器用な私は、人よりひとつのことに慣れるのも遅い方だと思う。いつまでも遠慮して気疲れしてしまう。そうして、どんどんしんどさの蟻地獄にハマってしまう。社会に出てそんな自分にコンプレックスを抱くようになった。

仕事が続いた試しがない。すぐに逃げてしまうから。

けれど、今ようやく居場所を見つけたような気がする。ちいさな書店で働き始めて今年の春で2年になる。自分が3年目を迎えることになるとは思いもしなかった。

仕事が続いている理由を考えたとき、私は書店で働くことが好きなのだと思った。だからダブルワークを探すときには、修行を積もうと大型書店に面接を受けに行った。けれど、私の想像とは大きく違っていた。私の本への情熱は、面接に行った大型書店の店長にことごとく冷笑された。ひとつひとつ、本を大切に手渡したいと言ったときの店長のどこか遠くを見ていた目を私は忘れない。

書店がどんどん減っていくこの時代に、私の考えは夢物語だという人の考えもわかる。けれど私は、本を買ってくれる人と直接対話し、丁寧に心を込めて売りたいのだ。

今働いている書店は、そういったコンセプトが根幹にあるし、規模もちいさいので私の理想が叶っていると言える。本を買ってくれた人と少し会話を交わす。それだけで毎日が少し充実する。

最近映画館のスタッフとしても働き始めた。今は覚えることばかりで、私はひとりでは何もできなくて、赤子に戻ったような気分。何かとビクビクしてばかりの日々。次の出勤日のことを考えては夜眠ることもままならなくなってきて、深夜暗がりの中で携帯を触ってしまう。このしんどさは、はじめの数ヶ月の辛抱だというのはわかっているけれど、今があまりにしんどいのでこの数ヶ月は永遠に続くのではないかとすら思う。

書店と映画館を移動して1日に10時間働く生活。時間とお金に追われる日々。

生活も仕事もひとつひとつ丁寧に心を込めて、ゆったりとした時間を過ごしたり、商品を手渡したりしたいだけなのに、今の世の中はマニュアル通り効率よく働く人が得したりする。接客を受ける側も、早く早くと急かす。なんで丁寧に働かせてくれないんだろう。といつも心苦しくなる。

『日日是好日』を読んだとき、私の思っていることをすべて言葉にしてくれたようで目の前が急にひらけた気がした。自然や季節、日々を大切にし、すべての動作に意味を込める。茶道を通してそれを教えてくれた。

学校では、定められた時間内に、決められた「正解」を導き出す考え方を習う。早く正しい答えを出すほど優秀だと評価され、一定の時間を過ぎたり、異なる答えを出したり、またそういう仕組みになじめない場合は、低い評価が下される。

p.228

そもそも私たちは一体何と競い合っているのだろう?

未だ答えは見つからない。「他人」ではなく「きのうまでの自分」と競い合うだけの精神力もなければ、社会に出てまだたった数年の子どもで未熟者だけれど、生きてるうちにそのヒントにかすかにでも触れられたらいいなと思う。

疲れたとき、私は何度も何度もこの本を手に取るだろう。
私と同じような思いで社会を生き抜いている人にも読んでほしい、おくすりのような一冊です。

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uka
「夏の花が好きなひとは、夏に死ぬっていうけれども、本当かしら」 太宰治『斜陽』

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