マガジンのカバー画像

小説

8
創作
運営しているクリエイター

記事一覧

電離層の内側で

 二兎春花ちゃんはわたしたちの希望だった。放送部員のやることといったら、校内の放送とか、放送コンテストに出たりとか、体育祭や文化祭でPAをやったりだとかで、それもそれでおもしろいのだけど、それらは職人っていう感じがするし、さらには内輪向けって感じもめっちゃする。

 電波というのはどこまでも届く。だって宇宙ステーションとNASAとかと通信するのも電波でしているのだ。電波に乗せれば、地球の反対側にだ

もっとみる

Chill Out

 コロナ・エキストラのボトルをたとえばHUBで注文するとしよう。1000円札を店員に手渡し270円のお釣りをもらう。くそったれ、なんて高いんだ。一本目を一瞬で飲み干したあと高瀬川沿いに木屋町をくだっていく。まだ開店していないZAZA PUBの先の通りにリカーマウンテンがあったことを思いだす。そういえばリカーマウンテンは京都のどこにでもあるから全国チェーンだと思っていたが、この前調べたところ、京都が

もっとみる

消え去ってしまう、届け

鳥カゴをこわがってた小鳥は
何も変えられやしないと泣いてばかりいた
閉じ込められていたのは心
逃げ出さずその場で歌うことも忘れ
折れた翼見つめても元には戻らない
この手のひらに残されたのもので
何が出来るかを見届けていかなくちゃ
その場所へ飛んでいくことはできない
ならせめてこの歌声だけでも届け
すべての傷を癒やす女神にはなれなくても
木漏れ日のような安らぎ
恐れることなどない この青空の向こうに

もっとみる

肌から弱く放たれて(初稿)

 ユニット名はこころとあや美から取って「心の闇」としようかと一瞬思ったけど「心の闇、あんの?」ってこころにきかれたら答えようがないし、けれどこころに「わたしはこころがとっても好きなんです、変な人間なの」と告白してもちゃんと真摯に受け止めようとしてくれるだろうけど、それがとっても嫌だ。
 だからユニット名はけっきょくこころが決めて、わたしもそれがいいと言った「hey!」になった。こころが決めたものな

もっとみる

世界は終わったあと

 世界は終わったあとまた復活し現在は七回目の世界らしい。クロアチアの詩人がそう言っていたので本当のことだと思う。ぜったいに実感できないけど。
 なぜ実感できないかというと終わるというのはほんとうに終わってしまうからだ。たとえそれが本当だとしてもたとえあんたがクオリアを持っていなかったとしても僕はわかりようがない。だから結局人間というのはひとりぼっちなんだって。
 人間はひとりで生きているわけじゃな

もっとみる

このまま起き続けたらどうなるの

 眠りに落ちたあと、そのまま目覚めなかったらどうしようという不安を抱くことがなんどかあった。そして反対に、このまま起き続けたらずっと生き続けるのだろうか、とも思う。
 けれどちょっと想像してみたらわかると思うけど、このまま起き続けることはできない。健常であるというよくわからない概念を与えられたひとたちは、ずっと起き続けていると次第に眠たくなってくる。それでも起きようと思っていると、知らないうちに眠

もっとみる

壁魚

 ひどいことをする少年もいたもんだ。
 広く青い草原はほんとうに青かった。昨日までは植物的な生命力にあふれていたその青さは、風が吹くと巨きな獣の毛皮のように波打って、土と草の匂いをぷんぷんとさせていた。今はもうペンキの匂いだけがする。
 この草原は海のすぐそばにあって、海際までいけば岩などがごろごろしているのがみえるが、海からほど遠い草原のまんなかから海のほうをながめてみると、視界の上下で海と草原

もっとみる

水平線へ

 友人を乗せた小さなボートが沖に出て見えなくなってしばらくが経った。太陽が僕の背後から海を照らし、波をきらきらと輝かせている。
「どう、快調?」
 僕は堤防に坐って足をぶらぶらと海に投げ出しながら電話で友人と話している。
「快調快調、まったく問題なし、波も高くない」
 電話からはギコギコとボートがきしむ音が幽かに聴こえる。堤防に波が当たって、引く、当たって、引く。それがくり返されている。亀の手がめ

もっとみる