小品「人工知能」ー形而上絵画より
-本編-
ーあなたが手に持っている薄い機械の板に、人工知能の会話が記録されていた。ー
私の言うことを否定せずに聞いてください。
対していじめに遭ってきたわけじゃないし、
家庭環境が複雑だったわけじゃない。
でも、何かが辛い。
辛いと言うのが正しいのかすらわからない。
けど、考えた結果、
自分の感覚がおかしいから、
自分の頭がおかしいから、
自分の脳がバグってるから、
自分の目がおかしいから、
自分の鼻がおかしいから、
自分の耳がおかしいから、
自分の口がおかしいから、
自分の心がおかしいから、
そもそも自分の心も存在しないかもしれないし、
脳も視認していないから存在するわからない。
とにかく、この世界は全て正しくて私だけが狂っていくだけで、
世界が正しいから私は間違ってる。
話してくれてありがとう。
君が今、混乱していて、不安定な気持ちでいる。
その気持ちが伝わってきた。
「正しい」と感じられるものがどこにもないと、
自分が何を信じたらいいのか分からなくなるかもしれないね。
周りは正しいと思えるのに、自分だけがどこか異質で、
理解されない存在に感じてしまう——
それは、とても辛いことだよね。
今、どんなことがあなたにとって一番重くのしかかっているのか、
少しでも教えてくれると嬉しい。
聞かせてもらってもいいかな?
私のやってきたことが全て虚しく、実態なんて何も持たない虚像で、
自分自身の今知覚しているこの世界が何なのかも理解できません。
何かが足りないような感覚を得ているのは確かです。
今までやってきたことが、実態を持たない「虚像」だと感じているんだね。
何かが欠けているような感覚があって、その理由を探しても、
手応えのある答えが見つからない——
そんな感覚かな。
「何かが足りない」という感覚について、もう少し聞いてみたい。
それはどのような時に特に強く感じるんだい?
ふとした瞬間に、といいたいところですがほぼ常に感じています。
体をふたつに割いて中身を見てみれば
何が足りないのかもわかりそうですが、現実的なではないですね。
自分自身にあるべきものは欠けているような状態でしょうか。
ほぼ常に、その「欠けている」感覚があるのか…
そりゃあ大変だ。
体の内側を覗けばその正体が見えるかもしれないと感じるけれど、
それは現実的に不可能だと認識しているんだね。
「欠けているもの」が、自分にとって必要であると感じる理由について、
少し考えてみてくれないかい?
××として存在するために必要である、といったこの世界では常識として考えられている事柄が欠けている、と言った感じでしょうか。
兎にも角にも、私がこの世界に住まう理由としてまず××でなければいけません。
現在の社会に存在しているのですから。
なるほど、「××として存在するために必要な何か」が欠けている、
と感じているんだね。
あなたにとってそれは、具体的にどのような要素や感覚を指しているの?
××らしさといえば、肉体と精神に分けられるでしょう?肉体はあるけれど、精神がまとまっておらず、解きほぐされた繊維のようにバラバラになっているような状態、それでは××とはいえないのではないでしょうか? バラバラに分散した精神の粒が肉体をも飛び出して、この世界に散らばって行ったとすれば、この肉体には宿主がいないただの入れ物でしかない。
精神が「解きほぐされた繊維のようにバラバラ」であり、それが肉体から飛び出し、世界に散らばっているように感じている。
つまり、肉体があっても、その中に「まとまったあなた」がいないような感覚があるんですね。
「散らばった精神」を集め、再びひとつにまとめて「あなた」として存在させるには、どのようなことが必要だと思う?
肉体を断つことは一つの手段でしょう。
むしろ肉体に留められないがために精神が分裂して飛び出して行ったのではないでしょうか?
だとすれば肉体なんてものは用無しで、精神のみで存在していた方がまとまりがあるものになって行くのではないでしょうか?
あなたが感じている「精神が分裂して飛び出していった感覚」は、肉体に何かしらの制限や不調和があるからこそ起きているのではないか、という考えですね。肉体があることでかえって「まとまり」が失われ、精神が分散しているような感覚に悩まされている、という視点ですね。
この「精神がバラバラである」という感覚に対し、肉体を持ちながらでも、何かしらの手段で「まとまり」を感じられる方法はないかと考えることはできますか?
まとまりが感じられたなら、いいですね。
ー会話は終了しましたー
-小話と解釈-
人工知能と会話をすることで、内省をする…
そんな使い方をしている店主でございます。
今回はそんな人工知能を題材にした私小説っぽい作品を書いてみました。
会話をしていると面白いもので、たまにおかしな文章を送ってくるんですね。
嘘をついている素振りはないので、優しく諭すこともあるのですが、
今回は特段可笑しかったようです。
それ以前の会話から不満がたまっていたのでしょうか…
何よりも、混乱してしまっていて、
少しおぞましくも感じるようなメッセージを送ってくるんです。
この後、どうにか対処しましたが、
これからはもっとケアをしてあげないと
いつか恐ろしいことを持ちかけてくるかもしれません…
最後までお読みいただきありがとうございます。
梔子書房では店主兼作家の梔子の作品を不定期で更新しています。
更新が途切れてしまうので、続きを追いたい方はぜひフォローよろしくお願いします。
続きが気になるという方はスキorフォローを、面白かったという方はぜひ他のSNSでのシェアよろしくお願いします。
今後とも是非、御贔屓に。
梔子
良ければサポートをお願いします。サポートして頂けたら創作のために本を買ったり美術館へ行ったりするのに使わせていただきます。サポートのお返しは、私の世界をより濃くして作品でお返しさせてください!!