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【書評エッセイ】バルミューダの旅。
ワクワクする「経営の本」を読もうと思い、手に取ったこの本。
バルミューダの創業者、寺尾玄さんの書き下ろし作品だ。
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ビジネス本だと思って読み始めたが、「あれ?これ旅の本だ」と思った。
本の半分近くまで著者の生い立ちと旅について書かれている。
旅好きの私はどうしても「旅の本」を引き寄せてしまうようだ。
当然、ワクワクしながら読んだ。
17歳、初めての旅、スペインへの一人旅が、素敵だ。
その旅で筆者は人生を学ぶ。
場所や、集団に定着して、そこを居場所だと思う方が間違っているのかもしれない。
どんなに移ろいやすくても、不安定でも、この旅が、というか、この変わりゆく人生こそが私たちの居場所なのだ。
むしろ所属や肩書きの方が、よっぽど移ろいやすいものだろう。
自分の身体と地面さえあれば、人は生きていくことができる。それを全身で覚えた旅だった。
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その後、彼はロック・ミュージシャンとして、メジャー・デビューを目前にしながらも、叶わなかった。
音楽で自分のクリエイティビティを正直に貫ききれなかった(期待される音楽に迎合した)ことを反省し、今度こそ自分のクリエイティビティを貫くべく製品作りを始める。
最初に彼がとった行動は、町工場へ飛び込んでものづくりの教えを乞うことだ。
ここで机上の空論に走らなかった事が、その後の成功の原因だろう。
普通であれば製品のデザインから始めてそこで止まるだろう。
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町工場で機械を使わせてもらい油だらけになりながら、ものづくりを学ぶ。
ものづくりの世界では、「しっくり」入る、という表現がある。この時の大きさの差の狙いは、〇・〇二五ミリである。
本田宗一郎の世界だ。
こんな事まで肌感覚で理解している経営者が今どれだけいるだろうか?
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Mac用のPCスタンドを売り出し予想以上に売れたものの、その後会社はずっとギリギリの状態が続く。
そして「自然の快適な風」を再現できる扇風機を考案する。
流体力学を自身で勉強し、既存の扇風機の風には、自然の風にはない「渦」がある事を発見し、渦をなくす羽を開発する。
それに洗練されたデザインを掛け合わせた。
その扇風機が予想以上に売れ、会社の危機を救った。
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扇風機を生産するための金型代六千万円の融資を取り付けた日、彼の全所持金は600円。電車で家に帰ると残金は150円だった。
黙っていても、どうせ会社はつぶれる。どうせ倒れるなら、前に倒れようと思った。
全くその通りだ。
私も倒れる時は、前に倒れようと思う。
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その後のバルミューダのトースター、掃除機、スピーカーなどの素晴らしい製品はみなさんよくご存知の通り。
その輝かしい成功の背後に、ミュージシャンとしての挫折、しっかりしたものづくりの土台、経営者としてのどん底の苦悩があったことはこの本で初めて知った。
そんな彼の強さの土台をつくったのが、「旅」であったのがなんともうれしい。
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結果的には「経営の本」というよりは「生き方の本」だった。
「最高のビジネス書」は、結局「最高の生き方の本」であるべきだと思っている。
バルミューダのトースターで焼いたおいしいトーストを楽しんでいる人はもちろん、旅好きな人、今どん底にいると思っている人、ロックンローラー、そして、すべてのビジネス・パーソンに本書をオススメする😎
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