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『汝のウサギを知れ』ブライアン・デ・パルマのデビュー作コメディ珍作~ドロップアウトして人生を楽しもう~
町山智浩セレクトのレア映画をCSザ・シネマで日本初公開。ブライアン・デ・パルマのデビュー作でありながら、劇場日本未公開作品。ニューヨークのインディーズ業界からハリウッドへ進出し、初のメジャー作品『汝のウサギを知れ』(1972年・原題:Get to Know Your Rabbit)」)は、勝手に再編集されたうえに2年間もお蔵入りになったいわく付きの作品。
奇妙な作品である。忙しく働く大企業の重役のドナルド・ビーマン(トム・スマザース)は、あるとき仕事を放り投げ、タップダンス奇術師になることを決める。資本主義社会からのドロップアウトである。冒頭で扉の前で向かい合わせで話していた男二人が、別の場所にいてワイプで別々の動きをするのを一画面で見せて驚かせてみたり、部屋のセットを真上から俯瞰で撮影し、ベッドから扉までの動きを、部屋のセットであることをわざわざ見せたり、爆弾騒ぎに乗じて会社を抜け出すところを、ワンカット長回しのドーリーバックで撮影したり、ブライアン・デ・パルマらしい斬新な映像センスがデビュー作から垣間見られる。これは町山智浩の解説によると、ブライアン・デ・パルマはオーソン・ウェルズの映像魔術を敬愛しているそうで、デビュー作にオーソン・ウェルズをオマージュを込めてキャスティングし、奇術師の先生役として登場させているのが本作だというのだ。ちなみにオーソン・ウェルズはセリフをちっとも覚えてこなくて、やる気もなかったらしい。怪しげな奇術の先生ではあるが。
会社の重役から、なぜタップダンス奇術師なのかよく分からないが、金髪美女の恋人とも別れ、オーソン・ウェルズが運営する奇術教室に通い、ついに資格を取得したビーマンは、地方への巡業の旅に出る。冒頭の爆弾騒ぎもなんだかよくわからないし、彼を説得するために両親がロッカーのような狭いところに入っているのも奇妙だし、ピアノの調律師が豪華な朝食を作ったり、隣の部屋でギュウギュウ詰めて4日連続のパーティーをやっていたり、女の子のブラジャー選びをしたりの奇妙なシーンの連続。奇術師の資格を得る儀式で蝋燭の火に手をかざすのも怪しげだ。バス旅で行く地方巡業は場末の店で、ステージ前の客が一人受けているだけで、ちっとも盛り上がりもない。盛り上がるのは、客の一人にキャサリン・ロスがいたときだ。彼女が一人で妙にウケていて、彼女をステージに上げて大きな袋に入って脱出奇術をやるのだが、袋の中で二人でもつれ合って腰を振ったり、キスをしたり、もうメチャクチャ。部屋で二人っきりになるのだが、キャサリン・ロスも奇妙な女で、新聞配達をしていたカッコよかった男の子のことを延々と喋り続けている。
巡業の途中で、前にいた会社の副社長だったターンブル(ジョン・アスティン)が服もボロボロの浮浪者になっていて再会し、ビーマンはホテルの一室で彼に事務机をあてがう。ところが巡業から帰ってきたら、ターンブルが会社を発展させていた。「肝の底から人生を楽しもう。17日間の(脱サラ)ドロップアウト計画。タップダンス奇術師になりませんか」という新聞広告を出したところ、続々とサラリーマンのおじさんたちがやってきて大盛況。大儲けして大きなビルの一角に事務所を構える大企業に成長。大企業の重役からドロップアウトしたつもりが、また大企業の重役になってしまうというブラック・コメディ。ウサギとは奇術に使うウサギのことだが、「自分のことを知れ」という意味らしい。
キャサリン・ロスはダスティン・ホフマンと結婚式場を抜け出した『卒業』(1967年)、アメリカン・ニューシネマとして有名な『明日に向かって撃て!』(1969年)のヒロインなど、当時の時代の人気者であった。そんな彼女とともにドロップアウトするコメディ映画だが、ラストは、また会社でのドリーバックショットがあって、奇術で使った袋に入って会社から脱出。『卒業』と同じようにキャサリン・ロスはバスに乗って、今度は赤ちゃんを連れて奇術をするトム・スマザースと巡業の旅に出る場面で終わる。ブライアン・デ・パルマは編集から外されたせいで、よくわかんないコメディ映画になっているとの町山智浩の解説があった。とにかく珍作である。
原題:GET TO KNOW YOUR RABBIT
1972年 / アメリカ / 92分
監督:ブライアン・デ・パル
脚本:ジョーダン・クリッテンデン
音楽:ジャック・エリオット、アリン・ファーガソン
撮影:ジョン・アロンゾ
美術:ウィリアム・マリー
編集:フランク・ウリオステ、ピーター・コルバート
キャスト:トム・スマザース、オーソン・ウェルズ、キャサリン・ロス、ジョン・アスティン、スザンヌ・ゼノー
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