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『そして僕は恋をする』アルノー・デプレシッャン~フランス恋愛群像劇の面白さ~
(C)Why Not Productions
フランス映画らしい男女のあれこれの映画である。若きマチュー・アマルリック主演の恋愛群像劇。ラストのマチュー・アマルリック演じるポールが友達の恋人シルヴィアを好きになった。そのシルヴィアを演じたマリアンヌ・ドゥニクールのクリクリした目と笑顔がキュートだ。まるでアンナ・カリーナのようだ。シルヴィアは、ポールの目の前ではなく、電話で彼の見えないところで抜群の笑顔を最後に見せる。視線の映画とも言えるこの恋愛群像劇において、視線が交わることで関係と心理が描かれ、たくさんの会話が交わされる。しかし、最後は相手の視線のないところで一人見せる笑顔。人間の心は複雑だ。マリアンヌ・ドゥニクールは、アルノー・デプレシャンの『二十歳の死』(1991)、『魂を救え!』(1992)にも出ているし、ジャック・リヴエットの『パリでかくれんぼ』にも出ていた。彼女の笑顔が印象として最後に残る。ポールは、シルヴィアに「私があなたを変えたの。傲慢なあなたを」と彼女に告げられ、自らも自覚する。人は他者との関係において新たな自分を獲得していく。
美しい女性たちが次から次へと登場し、次々と美しい裸を見せる。男友達もいろいろいて、それぞれのカップルがいっぱいるので、最初は人物関係が把握しにくい。しかも、フランス人はよく喋る。モノローグも理屈っぽかったり、とにかく饒舌だ。さらに友達の彼女に手を出したり、いろいろ複雑な男女模様だ。アルノー・デプレシャンは群像劇が得意なのか。『クリスマス・ストーリー』(2008)は家族の群像劇だった。『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』(2013)、『ルーベ、嘆きの光』(2019)、『レア・セドゥのいつわり』(2021)、『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』(2022)などアルノー・デプレシャン作品は見ているが、いろいろな内容のものがある。ただいずれもフランス映画らしく登場人物はみな饒舌でセリフが多く、人と人とのやり取り、関係の難しさや距離などを描く会話劇、心理劇が得意なのかもしれない。間もなく公開される新作『Spectateurs!』(『映画を愛する君へ』)も楽しみだが、もう少し彼の映画をいろいろと見てみようと思う。
ポール(マチュー・アマルリック)、29歳。高等師範学校で哲学を修めたエリートだが、もう何年も博士論文を出せないまま、講師の座に安住してすでに数年。10年間ズルズルと交際しているエステル(エマニュエル・ドゥヴォス)という恋人がいるが、二人の関係はうまくいっていない。言ってみれば、モラトリアム的な青年だ。年の暮れにみんなで集まることになり、ポールは幼い頃に書いた架空の自伝小説で母親に怒られた話をみんなにしている。親友のナタン(エマニュエル・サランジェ)とその恋人シルヴィア(マリアンヌ・ドゥニクール)がいて、ポールの同居人である従兄弟のボブ(ティボー・ド・モンタランベール)と恋人のパトリシア(キアラ・マストロヤンニ)もいる。みんなでシルヴィアの兄ジャン=ジャックの家のパーティーに行くことになり、シルヴィアが電話かけているところに、ポールが視線を送るやり取りがある。パーティーの場面でも、しばしばポールはシルヴィアを見つめているが、シルヴィアは恋人のナタンのそばにいて、ポールを相手しない。どうやら、ポールは二年前にナタンに紹介されてシルヴィアに初めてプールで会ったときから、惹かれているらしい。プールの更衣室の場面で、裸のシルヴィアとそれを見つめるポールのやり取り。シルヴィアの視線がここでも印象的に描かれる。そして何回か彼女と浮気をして付き合ったものの、二人はうまくいかなかった。
春、ポールの恋人だったエステルは国立通訳学校に合格し、ポールは彼女と別れることにする。シルヴィアの兄のジャン=ジャックの家で彼の恋人ヴァレリー(ジャンヌ・バリバール)と会ったのだが、ヴァレリーはポールに論文の指導教官になって欲しいと突然近寄ってきて、ポールも戸惑う。ヴァレリー演じるジャンヌ・バリバール(写真)も背の高いショートカットの美人だ。親友のナタンからは「危険な女だからやめとけ」と忠告されるが、ポールはヴァレリーと親しくなっていく。そしてポールの授業の教室に突然やって来て連れ出されると暴れ出す。そして過去に父親に性的虐待されたトラウマを告白する。ポールは大学に辞表を出して論文を書くことに専念し、ちょっと風変わりな女性ヴァレリーと付き合い出すのだが、あるとき彼女の手帳を盗み見て、父親からの性的虐待は嘘だったことが判明。ヴァレリーとも別れる。そして久しぶりに元恋人のエステルと会うのだが、エステルは今でもポールのことが忘れられない様子。ポールを失ったエステルの涙もせつなく描かれる。ポールは書き上げた論文を親友ナタンに見せると、これは出版できると褒められて編集者にシルヴィアを推薦される。再び会話をするポールとシルヴィア。ポールはシルヴィアに「あなたは私と出会って変わったわ」と言われる。エステルと10年ズルズルと付き合って、友達の恋人シルヴィアに夢中になるが結局別れることになって、エステルと別れ、また別の女性ヴァレリーが好意を寄せてきて付き合うが、これもうまくいかず・・・というポールの女性遍歴の物語。また、ポールには天敵のようなラビエという同級生がいて、その男が同じ大学の教師になり、彼と揉めたりもする。結局、ポールは好きだったけど、友の前でしらじらしく振る舞うシルヴィアのことが忘れられないようだ。そんな好きな女性に冷たくされたことや、様々な女性と付き合い別れたりしながら、大人になっていく物語。
ストーリーを書いたところで、なんだか関係が入り乱れてよく分からないだろう。3時間近い映画で長いのだが、俳優が魅力的なせいもあり、それぞれのやり取りが楽しめる。優柔不断で優しい男のポールと取り巻きの女性たちとの関係が、途中からどんどん面白くなっていく。男女の話だけではなく、ポールと敵対する猿を連れている奇妙な男との確執や、ポールがジョギング中に突然、精神状態がおかしくなる場面なども描かれており、人との関わりの中でどうやって自分を見出していくか、その人間関係が丁寧に描かれている。
1996年製作/178分/フランス
原題または英題:Comment je me suis dispute...(ma vie sexuelle)
配給:セテラ・インターナショナル
監督:アルノー・デプレシャン
脚本:アルノー・デプレシャン、エマニュエル・ブルデュー
製作:パスカル・コーシュトゥー グレゴワール・ソルレ
撮影:エリック・ゴーティエ
美術:アントワーヌ・プラトー
音楽:クリシュナ・レビ
録音:ローラン・ポワリエ
編集:フランソワ・ジェディジエ
キャスト:マチュー・アマルリック、エマニュエル・ドゥボス、エマニュエル・サランジェ、マリアンヌ・ドニクール、ティボール・ド・モンタレンベール、キアラ・マストロヤンニ、ドゥニ・ポダリデス、ジャンヌ・バリバール、ファブリス・デブレシャン
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