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とある小学校の先生の苦悩。
8月の終わりからとある仕事のことで、うわごとのように呟き続け、ずっと頭の片隅から離れないことがある。
2学期が始まること?
コロナ対策を踏まえた行事の提案?
複雑になってきた、児童生徒への対応?
はたまた多くの先生が見にくる研究授業?
まあ、それもよぎりはするけれど、
これに比べれば些細なものだ。
ーそう、ダンスである。
体育科における表現運動、
ずばりは運動会で踊るあのダンスである。
わたしは本当に自分でも呆れるくらい、リズム感がない。
小中学生では、低めの身長だったので身長順で4列で並んだとき、1番前になるかどうかを毎回ひやひやした。そしてギリギリ免れてはほっと胸を撫で下ろす。
運動会のダンスで、目の前に誰もいない状態で踊るなんて真っ平ごめんだからだ。
父や母が撮った運動会のビデオでは、一生懸命ながらも、ところどころ半テンポ遅れて動くわたしが克明に記録されている。
高校生大学生の時には、ゲームセンターで誰しもが通ってきたであろう「太鼓の達人」では、一切成長を遂げず、圧倒的点数(もちろん悪い意味での)を叩きだし、周りの友人に引かれたのは、幾ほどか。
最終的に目で追いながら叩くということを諦めたわたしは、「数打ちゃ当たる」方式で、ひたすら連打し続けることにした。
そういえば、大学では新入生歓迎会で先輩方がかっこよく舞っているのを見て憧れ、何をとち狂ったか、バレエを元にしたジャンルのダンス、モダンダンス部に入部。
他の人が5回で覚えるところを、わたしは
ギリギリまでフリを覚えられずに、たくさん個人練習に付き合ってもらった。
結局は怪我を理由に2回生で辞めてしまったが、わたしは自分が踊る、というより踊っている人を見るのがすごく好きなのだと後から気付いたっけ。
もちろん得れたものはあったし、挑戦したことを後悔はしていないけれど、ひたすら出来ないわたしに付き合ってくれた先輩や仲間たちにただただ申し訳なかったなあ。
頭で分かっていても、見た動きをスムーズに真似出来ない。
つまりは残念ながら、わたしは、脳内で描くイメージと身体が全くもって連動していないらしい。
そんなわたしがダンスを考え、そして覚えて100人弱(人数は年度による)の前で、舞台に立ち、踊って指導するのだから、
全く、狂気の沙汰である。
わたしが、もうちょっと歳を重ねていれば、
若手の先生に、押し付....ではなく任せられるのだが、そこそこ中堅ちょい下、となれば立場上、なんとも逃れがたい。
そしてご存知の通り、運動会が秋開催の場合、練習は残暑厳しい中行われる。
すぐ焼ける、という太陽に愛されすぎるわたしは、これでもかという幅広帽、首にタオル、アームカバー、マスクと農家の方々もびっくりな重装備をしつつ、日々の練習に挑む。
それだけ布をまとえば、もちろんとても暑い。
そこでわたしは、化学の力を駆使したありとあらゆるスプレーを振り撒き、持てるだけの保冷剤を身体に忍ばせるといった、クールミー大作戦にて、暑さに対抗しているのである。
またこの時期は、運動会練習に伴い、毎回時間割りの修正があったり、運営のための係の仕事や準備があったりと、時間が大幅に持っていかれ、残業時間が伸びることこの上ない。
しかし、ここまでマイナス要素を挙げておきながら、それでもわたしは運動会を嫌いにはなれないのだ。
「わたし(ぼく)ダンス好き!」と、いきいきと取り組む姿。
苦手だけれど、日を重ねるごとに出来るようになってきてうれしそうな姿。
休み時間に教室で「曲かけてよ!」と、
自主的に踊り出す子たちの輪。
その中で、子どもたち同士で教え合ったりお互いアドバイスし合ったりしていって深まっていく関係。
俯いて自信なさげに小さく踊ってた子の、しっかり伸ばされた指先。
ずっとへらへらしていた子が見せる、真剣な眼差し。
「わたしを見て!」と言わんばかりの動きとひまわりのような、笑顔。
ばっらばらだった動きが少しずつ、揃い出す瞬間。
そして迎える、運動会本番当日。
これまでの練習の子どもたちの様々な姿が脳裏にかけめぐりながら、わたしは満ち足りた気持ちで、目に焼き付ける。
彼らの、懸命に踊る姿、堂々と踊る姿、晴れ晴れとした顔で踊る姿を。
そして、
「すごくいい、、いいよ、、。みんなよく頑張ったな、、○年のみんな大好き、、、最高、、、。」
と親バカならぬ担任バカを遺憾なく発揮して目頭を熱くするのだ。
なんなら、最後のホイッスルを吹き、客席に一礼し、朝礼台から降りるときには、人知れず目からは1.2滴の水分が出ている。
ーそれは誰も知らない秘密であるが。
まあ、これを書く時間があれば、最後のサビのとこ、いい加減仕上げろよ、とさっきから内なる声が響いていることは重々承知している。
うん、頑張れわたし、、、。
運動会当日、観に来られる保護者や地域の方の皆さん。
子どもたちが精一杯頑張る素敵な姿の裏に、幾日もうんうん唸りながらダンスを考えてこの日に至ったのかもしれない存在にも、ほんのちょっぴり思いを馳せてもらえれば、幸いである。