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2019年4月の記事一覧
パラダイムシフター【About & Index】
◆本作について◆
科学世界、魔法世界、原始世界……無数に存在する多種多様な次元世界を股にかけるマルチバース活劇小説。それが異世界転移流離譚パラダイムシフターだ。
エロス・ヴァイオレンス描写有。無双・チート展開無。
本作はTwitterをメインの活動場所として、日夜、最新エピソードを連載している。noteにおける本マガジンは、そのアーカイブに当たる。
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【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (12/19)【交錯】
【目次】
【工作】←
「はずしたか」
謎の人影が、闇のなか、ゆっくりと立ち上がる。ミナズキは、声色で男性と判断した人の姿を、あらためて見やる。
かがり火に照らし出されるその姿は、男性であるのは間違いないが、じつに奇妙な風貌をしていた。
藍色の下袴は、ぴったりと脚に張り付くような形状をしている。上半身をおおう袍も見たことのない作りで、これまた身体の線がよく見える。
黒い髪は、結う
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (11/19)【工作】
【目次】
【変貌】←
「仕止め損ねたか。おれぁ、どうにも詰めが甘くていけねえぜ」
シジズは、悪鬼のごとき凶暴な笑みを相貌に浮かべる。十年以上の付き合いがありながら、ミナズキが初めて見る表情だった。
検非違使之輔の変貌と同様に奇異なのは、その右手に握れた太刀だ。ぶれて輪郭が定かではない刃から、羽虫の群のような耳障りな音が大路に響いている。
「ミナズキ。いまの式神の動き、てめえの指示じゃ
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (10/19)【変貌】
【目次】
【脱出】←
「侮っていたわけではないけど。思っていたよりも、早い……かしら」
念には念を入れて、ミナズキは、裏口をくぐらず、敷地の東北の角へと向かう。そこに植えられた松をよじ登り、塀を越える。
囲の上から、ミナズキは路地と大路にいくつものかがり火が行き来するのを見る。思っていたよりも、追っ手の数は多い。
「空を飛んで逃げるのは、無理そうかしら」
手にした札を握りしめなが
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (9/19)【脱出】
【目次】
【異貌】←
ミナズキは、普段使う式神の倍はある大鷹にぶら下がり、常夜京のうえを滑空する。
宮中の周辺で、いくつものかがり火が行き来しているのが見えた。追っ手はまだ、都全体まで広がってはいない。
常夜京をおおう怪異の闇が、いまはミナズキの姿を隠してくれる。漆黒のとばりの空を、長耳の符術巫は一直線に飛翔する。
やがてミナズキは、自分の邸宅の敷地内に着地する。過剰な霊力と重量
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (8/19)【異貌】
【目次】
【奏上】←
「あなや!」
何人かの貴族が悲鳴をあげる。この場にいるもの全員が、ミナズキに対して明らかな敵意と恐れを向ける。
中納言マサザネは、帝と二人の大臣のほうに向き直り、扇でミナズキのほうを指し示しながら口を開く。
「ご覧くだされ、あの異形の耳を! 符術之守ミナズキこそ、妖魔! 人に化けて、宮中へと潜り込んでいた!!」
中納言は、得意げに声を張り上げる。ミナズキは、
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (7/19)【奏上】
【目次】
【宮仕】←
ミナズキが、シジズに相談をしてから五日が経った。
そのあいだに、ミナズキは食糧召喚の儀式を執り行い、八角堂移転の土地探しに土木寮の役人とともに出向いた。
自らの邸宅に戻ると、シジズの使者が書状を持ってきた。内心、焦りを覚え始めていたミナズキは、努めて平静を装い、検非違使之輔の文を受け取る。
使者を見送ったのち、ミナズキは邸宅のなかへと戻る。
「都は火急の異
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (6/19)【宮仕】
【目次】
【荒廃】←
常闇におおわれた都において、天文寮の鳴らす鐘の音が時刻を知る唯一の手段だ。ミナズキは、陽麗京に刻を報せる音が響く少し前に、目を覚ました。
「ふわぁ……んっ」
起き抜けのミナズキは、幼いころからそうしているように沐浴をおこない、身を清める。簡単に朝食を済ませ、銅鏡を持ち出して身支度を整える。
式神の侍女が、ミナズキの黒い長髪をくしですく。鏡面には、ミナズキの顔が
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (5/19)【荒廃】
【目次】
【怪異】←
ミナズキは、背後に気配を感じて振り返る。そこには、侍女装束に身を包んだ女性の姿があった。
彼女もまた、ミナズキの式神だ。炊事洗濯、身の回りの世話を任している。侍女の式神は、ミナズキの前に盆を置く。
盆には、粥の入った椀、香の物が載った小皿、漆塗りの箸が置かれている。
「いただきます」
ミナズキは誰に言うともなく頭を下げると、箸と椀を手に取り、簡単な食事を取
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (4/19)【怪異】
【目次】
【炊出】←
寺社の炊き出しを見届けて、ミナズキは三日ぶりに自分の邸宅に戻ってきた。
「バウッ」
番犬が、主人を出迎えるように一吠えする。と、その輪郭がゆがみ、霧のようにかき消える。あとには、よれよれになった呪符が残される。
ミナズキは、懐から新しい呪符を取り出すと、息を吹きかける。霊紙の札は宙を舞い、見る間に姿を変えて、新たな番犬となって庭に着地する。
「ワン。ワンッ」
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (3/19)【炊出】
【目次】
【飢餓】←
僧侶たちは検非違使らと挨拶を交わすと、米俵を堂内へと運んでいく。ミナズキも、そのあとを追う。
「メシだァ! メシをくれェ!!」
餓鬼のようにやせ衰えた浮浪者の一人が、明けぬ夜空に向かって咆哮する。数名の検非違使が集まり、暴徒を化すまえに制する。
「場を乱すな! すぐに炊き出しがある……いま少し、待たぬか!」
骨と皮だけの貧民は、あっさりと地面に組み伏せられる
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (2/19)【飢餓】
【目次】
【符術】←
残された者たちが八角堂を出たときには、すでに中納言たちの姿は無かった。
ミナズキは、部下の符術巫たちに宮中への報告に向かうように命じて、自身は食糧を運ぶ検非違使の一行に同伴する。
食糧を満載した牛車と、それを取り囲む騎馬が、葉のない樹々の森を抜ける。左右に
田園が広がるが、放棄され、田植えはおろか水すら張られていない。
(『常夜の怪異』が起こってから……およそ
【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (1/19)【符術】
【目次】
【第3章】←
月のない暗闇のなか、かがり火と長弓を手にした検非違使たちが、山中の八角堂を守護している。
本来、都の警備を任務とする検非違使にとって、このような警備は管轄外だ。にも関わらず、屈強な男たちは慣れた表情を浮かべている。
(そも、いまの陽麗京に、慣例も常識もあったものか)
検非違使の一人が、胸の内でつぶやいた。
冬のように葉の落ちた樹々のあいだを、生温い風が吹
【第11章】青年は、草原を駆ける (4/4)【疾駆】
【目次】
【対峙】←
10メートルまで距離を詰めたラルフが両手で拳銃をかまえる、その瞬間──
<Alert>
『重双義腕<アームドアームズ>』が、骨伝導で警告メッセージを伝える。左側から、高速かつ高質量の動体反応が接近。直撃すれば致命的ダメージの可能性。
「なにィ!?」
機械の双腕が、ラルフの身を守ろうと自律行動をとる。片腕では衝撃を受けきれないと判断し、両腕を交差したクロスガ