190428パラダイムシフターnote用ヘッダ第04章11節

【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (11/19)【工作】

【目次】

【変貌】

「仕止め損ねたか。おれぁ、どうにも詰めが甘くていけねえぜ」

 シジズは、悪鬼のごとき凶暴な笑みを相貌に浮かべる。十年以上の付き合いがありながら、ミナズキが初めて見る表情だった。

 検非違使之輔の変貌と同様に奇異なのは、その右手に握れた太刀だ。ぶれて輪郭が定かではない刃から、羽虫の群のような耳障りな音が大路に響いている。

「ミナズキ。いまの式神の動き、てめえの指示じゃあなかったな? どれ……となると、あのジジイが呪符に手を加えていたか」

「ジジイ……? 父上のこと?」

 ミナズキは呆然とつぶやく。シジズは意に介する様子もなく、左手の人差し指で自分の顎の下をぼりぼりとかく。

「まったく、死んでも喰えねえジジイだ。ミナズキも、ミナズキだぜ。エルフの美人とくりゃあ、愛妾として囲ってやってもよかったのによ」

「えるふ……? シジズさま、貴台はさきほどからなにを」

「どれ。気にしなくてもいいぜ、ミナズキ。てめえは、すぐに処分する……ったく、順調だったのに、こんなところでケチがつくとはよ」

 シジズは、耳障りな羽音を立てる太刀を上段に構えて、ミナズキににじりよる。ミナズキは後ずさろうとするも、腰に力が入らない。

「あの抜け目ないジジイを出し抜いて、秘伝書をパクって、セフィロト本社に送って……まあ、いいさ。ビッグプロジェクトに、トラブルは付き物だぜ」

「秘伝書……ということは、食糧召還の儀式の項が付け加えられたことや、『禁足地』の記載が抜け落ちていたことも、まさか……シジズさまが!?」

「なんだ、そこまで気づいていたのか……ったく、あのジジイあって、この娘あり、だぜ。正確には、本社の技術解析部の仕事だがな」

 羽音の太刀を手にした偉丈夫は、ミナズキの細首を確実に斬り落とせる距離まで間合いを詰める。

「プロジェクトの完了まで、この次元世界<パラダイム>を活かさず殺さず、ってのが本社の方針でな。食糧の供給源を握るのは、支配の常套手段だぜ?」

「シジズさま! 検非違使之輔まで登り詰めた貴台が、いったいなぜ、そんなことを!! それに、せふぃろとか、ぱらだいむとは、いったい……!?」

「言ったぜ。気にしなくていい、ってな」

 シジズの瞳が、殺意を宿す。ミナズキは、死を覚悟する。

 同時にミナズキは、奇妙な光景を見る。シジズが振り上げた羽音の太刀の、さらに向こう側、墨で塗りつぶしたような空に、なにかが浮いている。

 門か、木戸か。とにかく、そういった形状の『なにか』が、天の闇に張り付いている。

 臨死の幻影かと、ミナズキは思った。しかし、その『なにか』は、確かにきしみ音を響かせて、門か、木戸のように開かれた。

「……ッ!? 厄日か、今日は!!」

 ミナズキより遅れて、シジズも気づき、顔をあげる。

 観音開きとなった向こう側の空間から、なにかが落ちてくる。ミナズキは、それが人である、ということだけ理解する。

「──ウラアッ!」

 落下してきた男が、雄叫びをあげる。直下から見上げるシジズに対して、まっすぐ拳を振り下ろす。

「チイィ……ッ!?」

 シジズは舌打ちしつつ、とっさに横に飛び、大路のうえを転がる。

 落ちてきた拳は、さきほどまでシジズがいた場所に叩きつけられる。路上を大きくえぐれる鈍い音が響き、土埃が周囲に舞う。

【交錯】

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