【第4章】彼は誰時、明けぬ帳の常夜京 (7/19)【奏上】
【宮仕】←
ミナズキが、シジズに相談をしてから五日が経った。
そのあいだに、ミナズキは食糧召喚の儀式を執り行い、八角堂移転の土地探しに土木寮の役人とともに出向いた。
自らの邸宅に戻ると、シジズの使者が書状を持ってきた。内心、焦りを覚え始めていたミナズキは、努めて平静を装い、検非違使之輔の文を受け取る。
使者を見送ったのち、ミナズキは邸宅のなかへと戻る。
「都は火急の異変だというのに、何故、こうも時間をかけるのかしら」
シジズに対してではなく、彼が取り次いだであろう上級貴族たちへの不満だった。貴族という人種は、どうにも物事をもったいぶりすぎる。
ミナズキは、使い慣れた机を前にして座ると、シジズの書状を開く。そこには、陽麗帝への直接の拝謁と、その日程について記されていた。
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文が届いてから、さらに三日後。ミナズキは、帝への謁見に臨む。
正座をして深々と頭を下げるミナズキの左右には、特権階級の貴族たちがずらりと並んでいる。そのなかには、中納言マサザネの姿もある。
ミナズキは、中納言が鼻を鳴らしながら、自分を一瞥したのを感じる。
ほとんどが能力とは関係なく、血筋のみで地位についた貴族たちの列の最果てに右大臣と左大臣が腰を下ろす。
二人の大臣の中央、御簾の向こう側に座すのが、この都の最高権力者である陽麗帝だ。帝の決定は、いかなる貴族でもくつがえすことはできない。
「符術之守、ミナズキ。面を上げよ」
「はい」
うやうやしく告げた右大臣の言葉に、ミナズキは従う。
「なんでも、直接、陽麗帝に奏上したいことがあるとか。申してみよ」
「はい」
左大臣の重々しい言葉が響き、ミナズキは返事をする。独特の圧をともなった気配に呑まれぬよう、丹田に力をこめる。
「帝もご存知のとおり、いま、陽麗京は『常夜の怪異』に呑まれております。陽が登らねば、作物も育たず、民は飢え苦しんでおります……」
ミナズキの、よく澄んだ声が響く。ミナズキは、緊張で額に汗を浮かべながら、息継ぎをする。
「……符術巫としても、この事態の解決は急務と考えております。そこで、怪異の原因を探るため、なにとぞ『禁足地』の調査をお許しいただきたく」
「ならぬ……ッ!」
帝の返事を待たずして、一人の貴族が怒気とともに立ち上がる。周囲がざわめき、ミナズキへの反発が広がっていく。
「十二年前、三日間の黄昏の怪異は、そのほうの父が『禁足地』を侵し、北方の神、霊山の主の怒りを買ったがためであることを忘れたか!」
また、別の貴族が声を上げる。ミナズキは、反論しようとする。
「……それは」
養父は、異変を解決するために北の霊山に向かい、その後『禁足地』と定められたのではないか。なぜ、因果が逆転しているのか。
しかし、ミナズキに再度の発言の機会は与えられなかった。
「帝、そして皆様方。麻呂こそ、申し上げたいことがありまする」
声の主は、中納言マサザネだった。中納言は、上座に向かって頭を下げ、右大臣がその発言を許可する。
「符術之守、ミナズキ。どうして麻呂が、そのほうの拝謁を認めたかわかるか?」
マサザネは立ち上がり、したり顔でミナズキのほうを見る。ミナズキの額の汗が、雫となって頬をつたう。
「符術之守。冠を脱ぎたまえ。帝や麻呂に、そのほうの耳を見せよ」
ミナズキは、しばし沈黙し、躊躇する。やがて、逃れることはできないと理解して、中納言の言葉に従う。
冠を起き、耳を隠し止める髪の毛をほどく。余人の倍はある、ミナズキの長くとがった耳が、左右に跳ねる。
→【異貌】
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