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「精神も自己治癒を志している」論と、私の体験について

2013年発信と古い記事だが、産経新聞Web版に掲載されていた遺伝子学者の村上和雄氏※へのインタビュー記事に、興味深い研究結果が紹介されている。それは補完療法としての「祈り」についてのものだ。

※ 高血圧の原因となる酵素レニンの解読に世界で初めて成功した。筑波大学名誉教授。1936-2021。記事は「筑波大学名誉教授・村上和雄 祈りとは「生命の宣言」である」、産経新聞Web、2013年7月25日公開。

■祈りが備える実存的パワーとは

記事によれば、この研究は、米国西海岸の病院で、重い心臓病患者393人を対象に行われたもの。快癒の祈りを受けたグループ、受けなかったグループの両者を比較したところ、祈りを受けたグループの患者たちは、祈られなかった患者たちよりも、人工呼吸器、抗生物質、透析の使用率が少なかったという。

しかも、研究結果によれば、祈りには「地理的な汎用性」もある。この病院に近い場所からの祈りも、遠い東海岸からの祈りも、同様に効果があった。

また、村上氏の談によれば、祈りが効果的に働いた病気は、心臓病に限らない。効果が確認された病気として、高血圧、心臓病、不眠症、不妊症、がん、エイズ、鬱病、リウマチなどが挙げられている。

このような研究内容は状況の再現、つまり再検証が難しく、手法の汎用性が高いかどうかについては検討の余地が残る。また、祈りと治癒の間の相関関係は確認できたとしても、因果関係の同定とその検証は難しいかもしれない。

しかし、村上氏も記事で言及していたが、従来は単なる迷信と軽んじられてきた祈りを科学的な研究対象としてニュートラルに捉えようというレベルに議論が昇華されてきたのは、興味深い。私は素直に、我々はとても面白い時代に生きているのであろうと思う。

私は何か既存の特定の宗教を信じているわけではない。だが、この森羅万象の背後には、何か偉大なる叡智――先に紹介した遺伝子学者の村上氏が定義した「サムシング・グレート」のようなもの――が存在するのではないかと考えている。また、実在性はさておき、そのような「偉大なる叡智」の存在を想定しつつ日々の仕事に向き合う、というのは、職業人にとって大切な心持ちではないかと考える。

■精神も自己治癒能力を持っている

宇宙が誕生したのは136億年前。宇宙物理学の研究成果によれば、それ以来宇宙は膨張している、つまり常に成長している。これこそサムシング・グレートのなせる御業だと定義すれば、サムシング・グレートが生み出した生命も、同じようにそれを志すのは自然なことと言えるだろう。

言うまでもなく人間も生命である。だとすれば、常日頃、成長と創造に対する意欲をもって活動するのが人間の本分であろうと思われる。

生命は自己再生と自己組織化を繰り返す存在である。若い頃はその勢いがすさまじく、年齢を重ねれば再生速度は落ち、また再生時のエラー率は高まる。これがいわゆる肉体の老化現象である。だが、年齢を重ねたとしても、皮膚についた傷などは若い頃と同じように回復する。

つまり、生命の原則は、生きている限り、常に自己を癒やし、常に全体性を取り戻そうとするところにある。

これは目に見える肉体だけでなく、精神あるいは意識についても同じだとする意見がある。つまり、「精神も身体と同じように、何らかの理由で深く害され本来の機能が損なわれたとしても、常に、また自然と、自己治癒を志し、本来の健康な状態を保とうとする」ということである。

私は20年以上、瞑想、気功法、ヨガを行ってきた。その動機は、子どもの頃から私の脳内で別の意志を持っているように振る舞っていた「もう一人の自分」や、しばしば他者に無差別的に抱いてしまう強い殺意を、なんとしてでも統御できるようになりたかったからだ。これら2つの意識内の要素には、大人になってからも、そして近年までも散々悩まされてきた。

なお、これらの現象、特に前者の「もう一人の自分」については、数年前の48歳の頃、私は幼少期に母親から性的ハラスメントを受け続けてきたことを明確に自覚した瞬間に、溶けるように収まっていった。強い殺意についてはそれ以降も「厄介な相手に理不尽に責められた時にはつい怒ってしまう、だから100%解消したとは言いづらい」という感触を持ち続けていたが、後から振り返ると、母親による性的ハラスメントの実態に気が付いたのと同時期に、怒りから殺意に発展する現象はかなり収まっていたことが分かった。つまり、ほぼ解消したと言っていいだろう。

私はこのような2つの難儀な精神的特性を持ちながら40代後半まで生き続ける中で、「人の意識とはどのようなものなのか」を必然的に探求することになった。瞑想、気功、ヨガなどの心身技法(私はこれらの技法をこのように呼んでいる。身体動作を通じて心を整える効果があるためだ)は、その道程で知った手法である。

どちらかと言えば愚鈍な生徒である私は、たくさんの先生方に迷惑をかけ続けてきた。だがそれでも、上記のような厄介な精神的問題を解除できた。また、それら精神的問題の核にあるものを特定する中、たくさんの人にお世話になってきた。そのため、必ずしもこれら心身技法だけで解決できたわけではなく、また私個人の力だけで解決したとは言えない。だがそれでも、これらの手法は心身を癒やし、健全性を高め、自己組織化を促すにあたり、かなり強力なツールであることは間違いないと考えている。

■精神の自己治癒性を使ったイメージ瞑想の方法

私がこれら心身技法の先生方から受けた教えの中で、特に印象に残っている内容の一つが、「意識も生命であり、精神にも自己治癒性がある」というものだ。要約すると次のようになる。

生命は宇宙の物質から生まれているものである。宇宙には絶対的な善悪・正邪・肯定否定はなく、それは人間の思考では計り知れない何かであるとしか言いようがない。しかしそれでも、宇宙にはある一定の原則がある。それは常に進化を志して動いているということだ。それゆえに、生命は常に自己再生と自己組織化を試みている。

そこから転じて、人間は、大いなる宇宙の特性を引き継いだ存在である。また、生命として自己再生・自己組織化する存在であるとも定義できる。そうであるならば、人間は、生きている限り、自然に自らを癒やし、また進化を志す存在である。

だとすると、自分の意識、自分の精神も、また生命であり、同じ性質を備えていると考えられる。ということは、小さい頃の心理的なトラウマも、自然に治癒されるものだと解釈できる。

もし、本人が自らの心理的トラウマに取り組みつつ、かなりの時間が経過しており、それでも治癒されない状態が保持されているとすれば、そのような「治癒されない状態を維持していること自体がメリット」とする価値観や意図が、その人の意識内のどこかに存在している可能性がある。

つまり、「心理的トラウマではない何かが原因として存在」しており、「むしろ問題を持っていることを肯定的に捉える何かが意識下にある」と推察できる。

心理セラピーではトラウマの治療として「過去の体験を思い出して過去の体験に紐付いた感情を解放する(これによりトラウマが癒やされて人生が改善される)」ということが行われる。それを繰り返し実行しても治癒が進展しない場合は、意識下のさらに下層にあるかもしれない、価値観、意図、決めごとを見抜く必要がある。

逆に言えば、深層にある価値観、意図、決めごとが明確に特定できれば、その人の感情の持ち方、衝動、役割意識、思考、人間関係――つまり人生が変えられることになる。

探っていくうえでのヒントおよび手順は、次のようなものである。

①まず、「実現したくても実現していないことがら」を探る。例えば、
「うまくいっていない現実」
「成功しない環境にとどまっている状態」
「建設的ではない思考・行動」
「他者から押しつけられた義務に従い、義務的に生きる人生」
などである。

②これを認識したら、「その裏にある決心や意図などを放棄することが、自己にとってより望ましい」という明確な意図をもって放棄する。放棄するのに効果的な手法の一つが、瞑想である。

③瞑想状態に入った後、無色透明な光を想起する。無色透明な光のイメージは、普遍的な無条件の愛という意味合いとして機能する。

④瞑想状態において、そのような無色透明な光を想起し、それと自分を重ね合わせる。さらには、このエネルギーを自分に取り込み、溢れんばかりの状態になっていくと想像する。加えて、このエネルギーを、自ら制限してきた観念、決心、意図、内的自己に向けて流していくのだと想像する。

⑤これを十分に行ったあと、瞑想を終了させる。

⑥もし、日常の中で同種の観念、決心、意図のあらわれである思考・感情・行動をしていることに気が付いた場合、すぐに瞑想に入ったところを想像し、かつ、無色透明の光でその場で消滅させると決める。

以上がノートの要点である。

こうした一種のイメージ瞑想は、1回のアクションだけではなかなか効果が出ない。絵や楽器演奏やスポーツと同じで、ある程度の練習が必要である。

ここで諦めずに、10回、20回、あるいは日々実行して1年、2年と経過すると、大きな進展が見られるのが面白いところである。

必要な回数や時間を強調しすぎると滅入る人もいるかもしれない。けれども、まずは2週間、頑張って毎日やってみると決めるのがお勧めである。途中でできない日があったとしても、自分を責めずに続けていただきたい。

私が、今回あらためて「意識も生命である」旨と、このイメージ瞑想を取り上げようと思った背景には、ある理由が存在する。

それは、自分で言うのも何だが、「自分の2つの精神的問題は、決して自分の生来のものではない」という確信が、小さい頃から心の片隅にあったためだ。

結果として、私が悩まされてきた2つの精神的問題は、私が幼少期に母親から受け続けてきた性的ハラスメント、さらに言えば父親によるディスカウント(人間としての価値を不当に低める行為)が組み合わさったハラスメント行為が原因であることを特定できた。

そのような根本原因に到達するまでに、20代の終わりから取り組み始めて、実に20年近くもの時間がかかってしまった。

だが、すっかり中年になってしまった今から過去を振り返ってみると、過去20年にわたる取り組みの中で受けた様々な教えが、いろいろな側面で役に立っていることは間違いない。

この記事が、皆様のお役に立つところがあれば幸いである。

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