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マイ本棚、秘密の愉しみ。
いささか忙しい日々を送っている。
来局する老若男女ありとあらゆる患者を一人一人笑顔で「こんにちはー」から「お大事にー」まで送り出すわたしは、マスクの内側で繰り広げられる前職の外部マナー講師から教えられた「とにかく口角を吊り上げること」に余念がない。
その念頭には小さいころにテレビの再放送で見たトラウマアニメ、妖怪人間ベムの「ベラ」がある。口角を意識ばかりするあまり、目が殆ど笑っていない。
実にわたしらしい。
あちら立てればこちらが立たぬ
不器用なわたしを慰める人はいない。
先日、小学生くらいの子供が処方箋を片手に、
「どんだけかかるのー?」と言ってやってきた。
混み合っている待合室をみて、「20分もあればできるかなー。」と返すわたし。
「ふーん。」
真顔でそう言い放ち、そそくさと出て行ってしまった。どうやら世間では待たせる施設で通ってしまっているようだ。
あの「ふーん。」を耳にして以来、わたしは頭の片隅になんともいえない自責の念に駆られながら勤めている。
「精進するのみ。精進するのみ。」
受付に立つたびに言い聞かせているものの、「ふーん。」の呪縛からはそうそう逃れられない。
さて、自責の念といえば私の書棚の現在地である。
春先以来もう買ってはいけないと思いつつ気が付いたらまた増えている書籍類。
自省を繰り返しては再度手元に置いてしまう再犯率の高さに自責の念が波打つように。
わかっちゃいるけどやめられない。
かつてのクレイジーなコメディアンが大衆向けに歌っている動画がYouTubeのお勧めに時折流れてくるが、すでに数え切れぬほど再生しているので今更聞き直すことも無かろう。
さて前置きが長くなったが半年に一度の愉しみ。マイ本棚、整理の成果をどうぞ。
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むしろこれ以上納めるところがなく困窮している。
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幻影の書、闇の中の男など心理描写を描いた名作、または評価が分かれる作品ばかりである。
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須賀敦子作品を開けばイタリアの現地人の面影をこの目で見たくなる。
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どちらも現実と創造の世界の区別がつかない。
幻想の世界へトリップできるのが読書の愉しみである。
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先日「列」で野間文芸賞を受賞した中村文則の連載「彼の左手は蛇」
Apepって何だ?の一言。
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山下和美「天才柳沢教授の生活」の主人公をマネして一時期交差点の角を直角に曲がり、
21時には布団に入るそれはそれは痛い中学生のわたしであった。
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理解するのに疲れたら、向田邦子や辻邦生を読んで回復する。
◆最近読んだ3冊から
・深夜の散歩
福永武彦・中村真一郎・丸谷才一 講談社
三人の大御所作家によるミステリー小説入門のエッセイ集
加田伶太郎名義による探偵小説を発表していた福永武彦が読みたくて探し当てたが、三人それぞれが実に面白い。
「探偵小説の愉しみは、一言にいって個人的な、謂わば秘密の楽しみである。こっそり読んで、ひとりで悦に入って、読み終わったらまた忘れてしまうだけのものだ。これが芸術作品なら、友人をつかまえて議論をする。仮に友人がまだその作品を読んでいなければ、筋を話す、特徴を論じる、感想を述べる、つまりは人を説得する。
~
だから一番腹が立つのは、探偵小説(および探偵映画)の筋書を書いた解説や批評の類だ。犯人はこうとか、トリックはこうとか、書いた方は親切かもしれないが、たねがばれたんでは愉しみはゼロになる。僕はこういったものは、初めから眼をつぶって読まない。探偵小説というものは、何等の読み知識なしに、自分の頭脳を作者の挑戦にぶつけて行くところが面白いのだ。作者の側からは名探偵が登場するが、僕の方だってけっこう名探偵のつもりなのだ。」
基本的なミステリー小説の楽しみ方と、解説でいきなり真犯人を暴露されることへの憤慨を代弁してくれる。
いつの時代も読む側が腹立たしくなることあるあるなのである。
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・1984
ジョージ・オーウェル 田内志文 訳 角川文庫
言わずと知れたジョージ・オーウェル作のディストピア文学の金字塔であるが、普段集中力があまり続かない私でも大変読みやすく最後まで読める翻訳である。
思想も言動も管理された文民統制の世界に生きるウィンストン。
ビッグ・ブラザーなる党の顔とされるプロパガンダに忠誠を誓うことに葛藤を覚えながら、密告をきっかけに次第に苦しい目に遭う。
思想統制というのは怖い反面、従ってしまえばお咎めなしという楽な面も持っているので、私も少し同調してしまうところがある。
皆が皆、同じ思想を持って動くことの危険性を巧みに表現されているので、私も目の前にある普遍的な思想に安易に染まらないよう意識したい。
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毎日ページをめくる手が止まらなかった。
・黙って喋って
ヒコロヒー 著 朝日新聞出版
最後は意外なところから。
「国民的地元のツレ」ことタレント ヒコロヒーの恋愛小説集である。
芸人のエッセイ本が人気になる昨今、ピース又吉直樹の芥川賞の受賞以降、きちんとした小説を書ける芸人が増えている。
ネタを考えるプロの芸人はトーク力や状況を把握する能力など地頭が良い印象があるので、おのずと文章を書くことに長けている人も現れてくる。
ヒコロヒーもそんな一人で、どこかで実際に起こっているような恋愛シチュエーション(特に嫉妬や些細なボタンのかけ違いから生じる別れ)を描く。
あまり期待しないで読んでいたので、思わぬ逸品である。
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◆おまけ
神田古本祭りで購入したもの
先日の神田神保町で行われていた古本祭りに顔を出してきた。
軒並み靖国通り沿いには本の出店があり、多くの客でにぎわっていた。
誘惑と戦う事2時間、また増やしてしまった。
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レストラン「ドイツ亭」はずっと読みたかった作品なので嬉しかった。
読書には、自分の考えを誰にも知られることのない秘密の愉しみがある。
思想の自由が保障されていない「1984」の世界でなくてよかったとしみじみ思う。
さて、机に戻りますか。