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ソーダ室とセーラー服【奇妙な思い出話】
子供の頃、船の『操舵室』のことを『ソーダ室』だと思っていた。
ある日の土曜の昼下がり、小学校から帰って観た外国のテレビ映画。
観光船の中で事件が起こる。
乗客として船に居合わせた主人公が事件を解決するため、「ソーダ室はあっちだ!」と、甲板を走る。
(ソーダ室!)
目を見開いた。なんて素敵な響き!
(そうだ、船にはソーダ室がある)
(ソーダ室はその名の通り、ソーダを作る部屋だ)
私は想像した。さきほどテレビ映画で観た観光船ではない、海軍の船を思った。
「軍艦のソーダ室ではラムネソーダを作るんだ!」
セーラー服を着た数人の水兵さんが、出来上がったラムネソーダが入った木箱をソーダ室から運び出す。瓶入りだからけっこう重い。でも水兵さんはたくましいからこれくらいへっちゃらだ。まるでアニメのポパイのようだ!
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若い水兵さんたちの日に焼けたまぶしい笑顔。
青い空、あおい海……
「軍艦で作ったラムネはとても美味しいんだ」
なにせ青い海と大きな船、水兵さんのセーラー服、それらが揃ったロケーションが良い。特別感がある。
ソーダ室という響きから、子供の私は軍艦とラムネとセーラー服にまで空想を広げた。
子供の頃の私は空想癖のある子供だった。日に何時間もそうやってお気に入りの場面を空想して遊ぶのだ。
ソーダ室は特にお気に入りの空想ネタとなり、その後何度も私を楽しませた。
ソーダというと、子供の頃の私はお祭りの屋台で買ってもらうラムネ瓶に入ったものが好きだった。
ラムネソーダだ。お祭りだからさらに特別なご馳走に思えた。そのうえ、ビー玉が入っているのが嬉しくて、ビー玉を取り出そうと瓶に指を突っ込んだり、瓶を割って散らかして、ちょっと後悔もした。
「これってどうやって蓋してるんだろ?」飲むたび不思議に思った。
学校の授業で二酸化炭素を習ったときには、「炭酸ガスの圧力によってビー玉で蓋をするんだ!」そう思うと、また軍艦のソーダ室の空想が蘇った。セーラー服の水平さんたちがラムネソーダを作っている。空想の海はいつもキラキラしていた。
操舵室がソーダ室のことではないと知ったのは、大人になってからのことだ。
「ソーダ室って、”操舵室“って書くの!?舵を操る、つまり船の操縦室のことじゃん!!」
ガッカリした。
「じゃあ、ソーダ室なんて存在しないんだ……」
つくづくガッカリした。
子供の頃のあの空想はこうしてあっけなく終わりを告げた。セーラー服の水兵さんがラムネ入りの木箱を抱えて笑う、あの笑顔はもうどこにもないと知ったのだ。
大人になった途端、『ソーダ室の思い出』にさようならしなくてはならなくなった
なんとも言えない甘酸っぱいような寂しさがこみ上げた。
ソーダだけに、鼻の奥がツンときた。
それ以降、ソーダ室の話は私の『プロフィールの鉄板ネタ』になった。
何度も何度も、出会う人達に話した。
おバカな子供の頃の勘違い、『バカ話』としてみんな笑ってくれた。
あれからもうずいぶんが経つ。
私はもうすぐ51歳になる。
昨日、7回目のファイザーワクチンを打ったあと、副反応のだるさに布団でゴロゴロしながらnoteサーフィンをしていて、とある記事に目が止まった。クルクル☆カッピー様という方の記事だ。
「えっ……」
記事にはこのような話が書かれてあった。
かつて日本海軍の艦艇にはラムネの製造器が積んであったらしい。
艦艇には消火用の二酸化炭素発生装置があり、機械の保守のため定期的に装置を動かす際に出来た二酸化炭素でラムネを製造していたとのこと。他にも色々と詳しい話が書かれていた。
「えええええええっ!?」
「ほんとに海軍がラムネ作ってたのおおおっ!?」
検索すると戦艦大和にもラムネの製造室があったという。
ま、マジかぁぁ!?
それって実質ソーダ室じゃん!!!!
どうやら、私が子供の頃空想した『セーラー服の水兵さんがラムネを運ぶ姿』はあながち大はずれではなかったらしい。
もう操舵室をソーダ室と勘違いした話は、プロフィールの鉄板ネタとして使えなくなってしまった。
あ、いや、
操舵をソーダと勘違いしたのは、まだじゅうぶんおバカな笑い話ではあるか!?
それにしてもソーダ室から海軍、セーラー服の水兵さんの日に焼けた笑顔までを連想した子供の頃の私の空想がこんな形で現実と繋がる日が来るとは思いもしなかった。
noteがくれた新たな驚きに感謝するしかない。
【以下、追記】
昔ながらの瓶をひっくり返してビー玉でふたをする『反転式』でラムネを製造する工場の動画。
楽しかったのでAI画像にもチャレンジしました!
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