この作者の別の作品は、以前に読んだことがあった。
若い人にすすめられて「終点のあの子」を読んだ。自分からは、遠すぎる存在である女子高生の小説。
しかも、私立の学校のような雰囲気で、自分にとっては、さらに遠いことなのに、リアルで身近に感じた。それは、作者の文章の力のおかげだと思う。
『とりあえずお湯わかせ』 柚木麻子
作者が出産直後の2018年から、2022年までのエッセイ集。それも、日記に近い内容で、かなり率直に文章にして、残してくれている。
例えば、2019年には、こうした記録がある。
生活と育児
その後、予想もしないコロナ禍がやってきて、仕事をして、育児をする生活に入っていく。持病を持ちながらの、この年月のことは、その当事者でなければ分からない事ばかりだと思う。
その貴重な経験や感覚を、作者は、言葉という表現で、きちんと残してくれている。だから、長くなるけれど、引用する。
子連れで、恐怖しない世の中を
こうした時間の中で、著者は、自分のことだけでも大変そうなのに、社会の出来事、特に、女性に今も襲いかかる理不尽さに対して、「NO」と言い続ける覚悟も継続させている。
それは、中年男性である自分には、本当の意味で理解するのは不可能だとしても、こうした作品で少し想像することはできるし、そのことが可能なのは、女子高生の小説が身近に感じた時と同様に、その文章のおかげだと思う。
このことで、著者は、この女性に向けて、手紙の形式で文章を続けている。
その一部を、やはり長くなるけれど、引用する。とても重要な文章だと思う。
コロナ禍での格差
2023年の現在、感染の「第8波」は収まらず、年明け早々には、コロナ感染死者数が過去最多といったニュースも流れていた。
ただ、亡くなる方は、圧倒的に高齢者層に偏っているので、社会の風潮は、健康で若ければ「コロナ明け」の方向に進んでいるのを感じる。私自身も、体が強くなく、若くもない。持病を持つ家族もいるから、相変わらず外出をなるべく自粛し、人混みは避ける生活を、自衛として続けている。高齢者もご近所に大勢いる。
これから先も、医療体制が充実し、感染した時に素早く治療を受けられるようにならない限りは、この生活と不安が続くのも変わらない。感染を心配しないで済む人たちと、高齢者だったり、持病を持つ人たちとの「格差」が、今後、広がっていくように思う。
この著者の文章は2020年の頃だけれど、「第8波」で、コロナ感染死者数が過去最多を記録するような現在も、おそらくは、自宅にこもって仕事をし、感染を防ぐために、夫とも生活を別にする生活が続いているのかもしれない。
今は、「コロナ明け」のことばかりが語られているように思えて、こうした人たちの声は聞かれていない。というよりも、著者が書いているように、現在でも、感染に気をつけなくてはいけない高齢者や、持病を持った人たちは、もしかしたら、声を上げる気力さえ残っていない生活が、今も続いていることを、改めて教えてくれていると思う。
おすすめしたい人
現在、育児をされている方々。
今も、コロナ感染に気をつけなくてはならない状態の人たち。
もしくは、現在の社会で実質的な力を持っている男性。
今回、引用は長めにさせてもらいましたが、全体は、さらに多様で、豊かな内容なので、もし、少しでも興味を持った場合は、著書を通して読むことを、おすすめします。
(こちら↓は電子書籍版です)。
(他にも、いろいろなことを書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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