読書感想 『職場を腐らせる人たち』 片田珠美 「身を守るために知っておいた方がいいこと」
ここ20年くらいで職場環境は厳しくなる一方ではないか。それほど会社という組織に深く長く関わってきたわけではないけれど、それでも、働くことが異様に厳しくなっているような気がする。
そして、会社を辞める理由の第1位は、どうやら何十年も「人間関係」のようだ。それは会社勤めが短い私でさえ納得がいくのと同時に、不思議なのはいわゆる「嫌な人」が、どこにでもいそうで、しかも「嫌な人」であることは、損得で考えたら明らかに損だと思われるのに、そのあり方を変えないことだ。
そんなことを、自分でも思った以上にずっと感じていたようで、だから、この書籍のタイトルを聞いたときに、やや強めに耳に届いたような気がした。
『職場を腐らせる人たち』 片田珠美
著者は精神科医。
「職場を腐らせる人」という表現はかなり強めでもあるのだけど、こうした豊富な臨床経験をもつ医師が断言するのだから説得力もある気がする。
さらに、これまで会社という組織に対して、薄々と感じていたことも明確に指摘できるのは、そうした職場の中ではなく、外部からの視点だからだと思う。
こうした連鎖については、以前からそうではないかとも思っていたが、微妙に悲しさもあるものの納得感もある。
読者としては、こうした連鎖をさせないために何とかできないのだろうか、などと思うものの、まずはそうした人と、今、直接顔を合わせているかもしれないと考えることのほうが、身を守るためには大事ではないかとも、読み進めると強めに感じてくる。
確かに、最初から「腐らせる人」とわかる方が、実は難しいのだろうとも思う。
根性論を持ち込む上司
最初の事例として挙げられているのが「根性論を持ち込む上司」だが、おそらくはそれだけその事例が多いということなのだろう。
同時に、このタイプの上司は実は20世紀にはもっと多くいて、以前はおそらくそれほど「腐らせる人」ではなかったと思えるのは、経済が成長していることによって、その弊害が見えにくかったのかもしれない。などと想像すると、このタイプの人は21世紀になったとしても、変わるのがとても難しいはずだ。
こういう人は、多くの場合、自分の上司もそうだったろうし、そのことで問題が起きにくかったと想像もできるけれど、それだけに、ただ「昭和の感覚」や「古い人」と表現するだけではなく、この「根性論を持ち込む上司」のどういった点が問題なのかを、改めて明確にしていくことも重要かもしれない、と思わせる。
このタイプの人が、もしも50代以上であれば、「やる気を出せばすべてがうまくいく」ことが現実に見えた時期が確かにあったことが、自分自身がすでに「腐らせる人」になったことを見えにくくしている可能性も高い。
バブル期までは、事実として経済が成長していて景気も良かった。だから、「やる気を出せばすべてがうまくいく」ように見えていたかもしれず、だけど、実態はやる気に関わらず、大きな失敗をしなければ、頑張ればうまくいく確率が高かっただけかもしれない。
だが、この「根性論を持ち込む上司」になってしまった人にとっては、そうした冷静な現実も、そもそも見えず、ただ「根性」で突き進んできて歳を重ねて上司になった可能性が高いのではないだろうか。
これはある意味で、残酷なことだとは思うけれど、どれだけ頑張っても、変化の時代に対応するのは難しいのは、外から見ればわかる。だけど、もし当事者だったら、こんなに頑張ってきたのに、というような思いの中で、ずっと不満や不安が高まっているのかもしれない。
その暴走が、結果として「職場を腐らせる」ことにつながり、被害者が出てしまうことになるが、この書籍では、このタイプの上司への対処法も挙げられている。
それがどこまで有効かどうかは人によっては分からないもの、少なくとも知っておいた方がいいことだと思う。
「腐らせる人」の具体例
この書籍の重要性は、こうした「職場を腐らせる人」の事例を具体的に、さらにはその内面までも指摘していることだと思う。そして、読み進めていくと、最初は「腐らせる人」という表現が強すぎると思っていたのが、決して大げさではないと感じてくる。
例えば、「事例2 過大なノルマを部下に押しつける上司」については、こうした分析がされている。
事例の数は全部で15にも及ぶ。
すべての事例を知りたい場合は、お手数だが、本書を手にとってもらいたのだけど、ここで挙げた事例でも、「腐らせる人」とは言い過ぎではないか、と思われるタイプにまで、まずは「腐らせる人」という枠に入れた上で分析しているのは、なるべく早く、こうした人の存在に気づいて、まずは身を守ってほしい、という著者の狙いもあるように思える。
そして、個人的には、かなり怖さがあるのは「事例11 不和の種をまく人」で、それはここでもその当事者は、一見穏やかに見えて、とても「腐らせる人」に思えないからだ。それでも、この「不和の種をまく人」は、普段から職場の中で、その作業を繰り返し、気がついたらもめごとが起こっているようだ。
それが、こうした動機に基づくものであれば、やめられないだろう。
そして、そのやり方は、とても注意深いという。
それでも、まずするべき、自分の身を守る方法はあるらしい。
自分の身を守るために
この著者では、こうした「職場を腐らせる人」を変えるのは難しいと分析している。
その理由の一つとして、「腐らせる人」になっていく要素の一つに「喪失不安」があり、現在の日本の社会状況が、その不安を募らせる環境であるのだから、と挙げている。
そうしたことを知ると、やはりちょっと絶望的な思いにもなるのだけど、だからこそ、自衛をしていくしかなく、そのための方法まで触れている。
とにかく、「まず気づくこと」を著者は繰り返している。
こうした雰囲気や、もしくはトラブルが多い職場であることに対して、真面目な人ほど自分のせいではないか。そんなふうに思いがちなだけに、まず自分ではなく、「職場を腐らせる人」がいるかもしれない、と考えて、自分を守る方向に考えたほうがいいようだ。
その対策に関しては具体例も挙げられているが、その一部を引用する。これは、「職場を腐らせる人」が誰か。ほぼ目安がついたあとの方法になるだろう。
基本的に優しい人ほど、こうした方法自体に抵抗感があるかもしれないけれど、現在の日本の職場環境を考えたら、自分を守ることをまず優先させてほしいと思えた。
21世紀の会社組織で働くすべての人に、おすすめしたいと思います。
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(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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